震災、市町村合併で庁舎の建て替えを決断 <独自調査>市役所庁舎の建て替え状況

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「完成済み」「工事進行中」「計画あり」と回答した212都市に対し、建て替えの理由を聞いたところ、複数回答で、「老朽化」168都市、「耐震強度不足など防災上の理由」163都市と大きく2つに分かれた。「老朽化」には、古くなったことで安全や防災面で問題が生じているという意味合いも含まれているため、庁舎建て替えに踏み切る最大の要因は、耐震性の強化を中心とした防災面での対策ということがいえよう。

特に、2011年3月11日の東日本大震災では、いくつかの自治体で庁舎が地震で崩れたり、大きく破損したりして使用できなくなっている。本調査でも、遠野市(岩手)や須賀川市(福島)、水戸市、高萩市(茨城)では、市役所庁舎が使用できない状況にまで破損したため、建て替えに踏み切るとしている。

それ以外の大きな理由としては、「合併等に伴う移転・集約」があり、81都市がその理由として回答している。

合併特例債が庁舎建設を後押し

建て替えのもうひとつの理由として、「合併等に伴う移転・集約」が挙げられている。市役所機能が合併前の旧自治体の庁舎に分散されていては非効率という意見はもっともだが、とはいえ、ほぼ例外なくどの自治体も財政事情は厳しく、庁舎の建設に踏み切るのは容易ではない。それでも、庁舎建設に踏み切るのにはわけがある。

合併した自治体は、旧合併特例法において、「合併市町村の一体性の速やかな確立を図るため又は均衡ある発展に資するために行う公共的施設の整備事業」や「合併市町村の建設を総合的かつ効果的に推進するために行う公共的施設の統合整備事業」(第11条の2)には、合併特例債という地方債を発行することができるとされている。

合併特例債の70%は地方交付税で賄われ、地元の負担は30%で済む。庁舎の建設・建て替えは、この条文の条件を満たすため、財政的に厳しい自治体であっても、それほど抵抗なく踏み切ることができるというわけだ。しかも、合併より10年間とされていた特例債の発行期限が15年に延長され、該当の自治体にとってはより使いやすくなったことも影響している。

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加藤 千明 ファイナンシャル・プランナー、「アメリカ企業リサーチラボ」運営

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かとう ちあき / Chiaki Kato

大手証券会社勤務の後、1993年7月、東洋経済新報社に入社。主に統計指標をベースとした刊行物を担当する一方、電機・化学業界担当記者としてITバブルの全盛期と終焉を経験。その後は、マクロ、マーケットおよび地域動向を主戦場に、データをもとにした分析、執筆などを行う。2005年より『東洋経済 統計月報』編集長、2010年より『都市データパック』編集長。『米国会社四季報』編集部を経て、2021年2月に退社。現在はファイナンシャル・プランナーとして活動するかたわら、アメリカ企業の決算情報を中心にSNSで発信。

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