”こだわりすぎない”ベーグル屋の堅実戦略 「派手さはないけど、実がある」商売

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派手さはないけれど実がある人

――実家に隣接した工房ならば何かと便利ですよね。どんな働き方をしていますか。

今は私も妹も結婚して蒲郡市に住んでいるので、車で30分ほどかけて通勤しています。朝9時半に工房に着いてベーグルを焼き始め、注文分を梱包して、15時に来る郵便局の人に渡します。後の時間は仕込みです。18時ぐらいには終わって、それぞれの家に帰ります。

最近は月2回程度、工房での販売もしています。お客さんと会っていないと「忘れ去られるんじゃないか」と不安になるので……。1日に200個も売れる日もあるし、たくさん売れ残ってしまうこともあります。まだまだこれからです。

「COFFEE&BAGEL KINO」の工房は「大草原の小さな家」みたいな風情です。空が広い!

愛知県には「派手さはないけれど実がある人」が多いと思う。いい意味での合理主義が文化として根付いているのだ。牧野さんが「健康な人間に変なこだわり食材は必要ない。値段が上がってしまうだけ。私たちがおいしいと思うものをお客さんの幅を狭めずに作っていきたい」と淡々と語ったとき、典型的な愛知県人だなあと感じた。保守的ともいえるバランス感覚が身に付いているのだ。

話は飛躍するが、このバランス感覚は中部電力のような大企業にも通じると思う。長らく弱点とされてきた原子力比率の低さは、今では強みに変わっている。最新鋭の火力発電所をフル稼働させながら、米国産シェールガス輸入など燃料確保に積極的に乗り出している。かつて原発建設が華やかなりし頃、「原発は確かに稼ぎがいいけれどリスクもある。依存するのは心配だよね」という意見が出たのだろう。よくも悪くも堅実である。

実家の敷地に小さな工房を建てて、妹と2人でベーグルを作っている牧野さん。人気のトマト&ペッパーベーグルのトマトは農家の旦那さんが生産しているものだという。おいしくて低コストなのは当然だ。継続性も高い。

牧野さんは10年以上にわたって自分に合った飲食業を模索し続けて、現在の形態に行き着いた。パッケージや売り方を工夫するサービス精神はあっても、虚飾や気負いとは無縁だ。この実直さがストレートなおいしさとなってベーグルに凝縮されているのだと思う。

愛知は決してB級グルメだけではない。かといって、東京や京都のように優美な一流飲食店の集まる場所でもない。あえて言うならば、「お得で実のある食べ物が好まれる」土地柄なのだ。牧野さんのベーグルも少しずつでも確実に顧客を増やしていく予感がする。

 

大宮 冬洋 ライター

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おおみや とうよう / Toyo Omiya

1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。著書に『30代未婚男』(共著、NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ともに、ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる 晩婚時代の幸せのつかみ方』 (講談社+α新書)など。

読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京や愛知で毎月開催。http://omiyatoyo.com/

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