とはいえ、そうしたトランプ氏の「資質」の問題は別にして、トランプ氏が掲げる政策が経済に与える影響を、冷静に考えておく価値はある。トランプ氏の公約には、少なくとも短期的には、米国経済にプラスの影響を与え得る「良い公約」が含まれているからだ。
その好例は減税である。トランプ氏は、所得税や法人税の減税を公約している。相続税の改革等を含めると、2016~26年度を累計した減税額は6兆ドルを超える。これらが実現すれば、成長率を押し上げる効果が期待できる。
減税と歳出拡大なら賃金上昇
所得税ではすべての所得階層について、税率の引き下げが提案されている。現在39.6%の最高税率は33%に引き下げられ、7段階の税率構造は、12、25、33%の3段階に簡素化される。圧倒的に減税の恩恵が大きいのは富裕層だが、中間層や低所得層についても、ヒラリー・クリントン氏が公約していた税制改革案よりも、大きな減税が期待できる。
法人税では、最高税率が35%から15%に引き下げられる。また、米国内の製造業に関しては、設備投資の即時償却制度が選択できるようになる。さらに、企業が海外に留保している利益については、現行制度よりも低い税率で国内に送金することが可能になる。
歳出が拡大傾向となる可能性も見逃せない。トランプ氏は、インフラ投資の充実を強調してきた。あわせて、これまで歳出が抑制されてきた国防費についても、既定路線からの増額を示唆している。
実は現在の米国経済には、トランプ政権による景気刺激がもたらす恩恵が、中間層以下に広がっていく可能性がある。米国の労働市場は堅調であり、完全雇用に近い状態にある。政策効果で成長率が押し上げられた場合には、賃金の上昇傾向が強まりやすい環境だ。皮肉にも、バラク・オバマ政権による金融危機からの再建が、トランプ政権の経済政策が成功する土壌を整備しているのかもしれない。
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