彼の最近の言動から見ると、トランプ氏の考えや日本への見解は1980年代からまったく変わっていない。変わったのは、中国や韓国、ベトナムに対しても同様の見解を持つようになったことくらいだ。
ここで重要なのは、実際にトランプ氏がこうした見解を維持したまま大統領に就任し、この見解に基づいた政策を実行するかどうかである。まず、貿易については、トランプ氏がTPPの批准を支持するとは考えがたい。続けるとすれば、振り出しに戻して交渉を再び行うことを求めるだろうが、最悪の場合はTPP自体を単純に拒否するだろう。
さらに最悪な場合は、NAFTAの撤回もありうる。そうなった場合、日本政府は現実を受け入れなくてはならない。メキシコやカナダに工場を持っている企業も、大きな戦略転換を迫られるかもしれない。
中国は「プーチン化」する?
より予測が困難なのは、日本と米国の安保体制だ。米首都ワシントンの当局者たちは間違いなくトランプ氏に、日米同盟が、台頭する中国を押さえるために必要不可欠であることを説明するだろう。すでに、トランプ政権による準孤立主義を利用して、中国がより積極的な行動に出るのではないか、との憶測が広がっている。米フォーリン・ポリシー誌のジェームス・パルマー記者は、「中国は、トランプの中国に対する無知につけ込みながら、プーチン風にトランプを褒めそやすかもしれない」と書いている。
これによって、アジアのいくつかの国は、時流に乗って中国側につくかもしれない。また、日本、韓国、台湾のような国が、米国に見捨てられる恐れに駆り立てられ、米国の抑止力による保証に代わりとして、自ら核兵器の開発を目論むこともまったくないとは言い切れない。
一方、強烈な国家主義のレトリックに身を包んだ人物がトランプ政権にいて中国を挑発しようとした場合、日米同盟の価値が再び明白になるだろう。そもそも、トランプ氏自身、中国と南シナ海問題でもめることは望んでいないだろうし、ましてや東シナ海の防衛力増強など考えていないはずだ。中国にしたって、中国製品に巨額の関税を課し、米国企業の工場を中国外に移転すると話しているトランプ氏を刺激したくないはずだ。
当選以降、トランプ氏の「軟化」が取りざたされているが、同氏が早々に自らの考えを捨てたと考えるのは早すぎるだろう。
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