[11月10日 ペンシルバニア州ベスレヘム(ロイター)] - ヒラリー・クリントンをホワイトハウスに送るはずだったシナリオが壊れたのは、なぜか。そこには、ペンシルバニア州ノーサンプトン郡に住むジム・マクアンドリューのような有権者たちが大いに関係している。
69歳の元製鋼工であるマクアンドリューは、半世紀もの間、全ての大統領選で民主党候補に投票してきた。ところが彼は今回の大統領選では投票所に行かなかった。また、ノーサンプトン郡の大半は白人、民主党支持者、そして労働階級で占められ、2008年、2012年とバラク・オバマ大統領を支持したが、今回は共和党のドナルド・トランプに投票した有権者が多かった。
伝統的に民主党を支持してきた地域が崩れた
前回の2度の大統領選でオバマに投票したマクアンドリューはトランプに興味をそそられたが、「彼がやることは女性、黒人、白人、金持ちも貧乏人も、すべての人を愚弄することだけ。彼は愚か者」という結論に至ったという。マクアンドリューはクリントンへの投票も考えたが、国務長官でありながら、私用のメールサーバーを使って極秘文書を扱った彼女の不祥事に対する不信感をぬぐうことができなかった。
マクアンドリューは「どちらも大嫌い。だから『どうなろうとかまうものか』と思った」と言う。彼の妻も生涯に渡って民主党支持者だが、彼を残して投票所に行った。妻は共和党に投票した。「こんなことは初めてのこと」と彼は言う。
ノーサンプトンのような強固な民主党支持地域を方向転換させるトランプの能力が、彼を大統領選での勝利に導いた。それは、ペンシルバニア州やラストベルト地域(旧工業地帯)の州で勝利することが前提だった民主党の選挙戦略を阻むポイントであった。また、それがフロリダ州や、ノースカロライナ州など重要なスイング・ステートでの勝利への勢いを強めた。
ここで重要な点は、トランプの経済的大衆主義と「アメリカ優先」のメッセージが全体を熱狂させたわけではないことだ。トランプは、2012年に共和党から出馬したミット・ロムニーより遥かに少ない票でそれらの郡を制しているのだ。全国的にみても、トランプへの5970万票は、4年前にロムニーが負けた時の6090万票より120万票も少ない。
つまり共和党が勝ったというより、クリントンが民主党有権者を繫ぎ止めておくことに失敗したと解釈したほうが正確だ。党の境界を越えて、トランプを支持する者や独立政党を支持する者もいたのである。