慶大推薦女子の恋を「内部女子」が打ち砕く 東京カレンダー「慶應内格差」<4>
グローバルな視点を持って働きたい、そんな想いで卒業後は、美女枠の鉄則に漏れず、外資系コンサルティングファームへ。バイリンガル美女のエミリは、会社でも先輩から可愛がられた。
今日はそんな先輩の1人、マサトが企画したパーティーに呼ばれた。場所は『1967』。外コンは業界が狭く、飲み会もいつも同じメンツなのだが、今日は他の女の子も呼んでいるらしい。
自分より年収が低いと気を使うし、英語が喋れない日系サラリーマンは、はなから相手にしていない。やっぱり付き合うなら、仕事の理解者にもなってくれる同じ業界がいい。エミリは同じ帰国・慶應卒で共通点の多いマサトと、一歩踏み込んだ関係になろうと気合を入れてやってきた。
自分のテリトリーだと思っていた外コンのパーティーで
「Hey! Emily, Come here!」
会場に入るとすぐに、マサトが声をかけてきた。久しぶり~!と、手を上げようとしたとき、背後に背の低い女の子が立っているのに気づく。
「この子、栞ちゃん。大学で一緒だよ?覚えてない?ほら、アナウンサーの!」
「覚えてる~? J組だった栞です。エミリちゃん昔からきれいだったけど、すごいまたきれいになったね~!」
パーティーによく似合う黒のワンピース。トレードマークのふわふわ前髪。栞のキラキラ加減に、一瞬目がくらむ。
ーなんで、ここに、いるの?ー
一瞬気まずい空気が流れたところ、マサトがすかさずフォローする。
「栞ちゃん、最近彼氏と別れちゃったんだって。この話したら来たいっていうから呼んだんだ!エミリ、仲良くしろよ~!」
栞のことはもちろん覚えている。日吉キャンパスの学食で初めて見た時から衝撃だった。私が卒業した国立の高校には可愛さと華やかさを兼ね備えた栞のようなオーラを持った子はいなかった。
授業で一緒になった時、栞に話しかけられたことがあった。
「エミリちゃんって美人なのに、なんで格好がそんなに地味なの?」。当時、海外で長い時間を過ごしてきたエミリの服装はTシャツとジーンズが基本。化粧も薄く、髪の毛も伸ばしっぱなしだった。
あの栞に美人と褒められたことは嬉しかった。ただ一方で、ろくに勉強もせず、大学までやってきた栞のような内部生の存在は、認めたくないけど憎らしい。授業にも出席せず、テスト前に男にねだって勉強会を開いてもらい、すべて男からの”施し”で生きているような女。”絶対に負けたくない”。エミリの負けず嫌いな心に火がついた瞬間だった。
そこから服や化粧も変え、就職も頑張った。そして掴んだ外コンへの切符。頭の良さはもちろん、今は容姿だって負けていない。今日のパーティーはみんな知り合いだし、自分の庭で開催されているようなものだった。それなのに、現れた栞。アラサーになった今でも男に頼ってこういう場所に現れて……、やっぱり憎い。