なぜ円安なのに、設備投資は増加しないのか アベノミクスは実体経済に影響を与えていない

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将来の利益増は期待薄、だから設備投資増えず

設備投資は今後増えるだろうか?それを考えるには、設備投資の決定基準を考える必要がある。

原理的に言えば、投資が行われるのは、それによって企業価値が増大する場合だ。簡単化のため、現時点で投資資金を調達して収益が将来時点で発生するとしよう。企業価値が増大するには、投資収益の現在値が資金コストを上回ることが必要だ。まず収益率について述べよう。

将来の利益は、将来の売り上げと原価で決まる。法人企業統計で見る利益の動向は、産業によって大きく異なる。自動車・同部品は、13年1~3月期に利益が増加した(対前年比70.5%増)。これは、円安の影響だ。自動車産業の設備投資が増えているのは、その影響だろう。

ただし、投資決定に影響するのは利益の水準であって、伸び率ではないことに注意が必要だ。自動車産業の場合、円安が進むと輸出売り上げが増加する反面、コストはあまり変わらない。このため、利益の伸び率は高くなる。しかし、輸出の代替手段として海外生産がある。賃金率などを考慮すれば、国内生産能力を増強して輸出で対応するより、海外生産を志向するほうが合理的だ。自動車産業はすでにその方向を選んでいる。

しかも、円安は、投機で進んだ可能性が強い。だから、今後継続するかどうか分からない。07年頃までの円安期に国内生産への回帰が生じ、その時建設した巨大工場が今、収益を圧迫していることを考えれば、国内回帰にはリスクが伴う。

円安で1~3月期の営業利益が増えた産業としては、電気機器(34.6%増)、情報通信機器(67.7%増)などもある。しかし、これらの産業では、前述のように設備投資は顕著な減少を示している。これは、円安で一時的に利益が増えても生産の国内回帰は生じないことの典型的なケースだ。

製造業の中でも、原材料を輸入に頼る業種では、利益の減少が見られる。典型的なのは、食料品製造(13年1~3月期の営業利益の対前年同期比が20.2%減)、繊維(同65.0%減)、パルプ・紙(24.1%減)などだ。こうしたデータを勘案すると、これらの業種では、将来利益が増加する見込みは薄い。

結局のところ、製造業の設備投資は、長期的な傾向として減少するだろう。今後日本の設備投資が増えるとすればそれは非製造業であり、そのためには、円安は阻害要因になることに注意が必要だ。

安倍晋三首相は年間設備投資を70兆円にするとしている。しかし、その実現は難しい。もし増加させようとするなら、非製造業を中心に考えるべきだ。ただし、非製造業は内需型がほとんどで、円安はコストを引き上げる。だから、仮に非製造業の設備投資増を目指すのであれば、円安政策からの脱却が必要だ。

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