【石倉洋子氏・講演】感動する力・感動させる力(その3)

東洋経済主催セミナー「Customer Satisfaction Forum 2008」より
講師:石倉洋子
2008年4月21日 大手町サンケイプラザ(東京)

その2より続き)

●時代に合わせた更新、変わらない使命感とビジョン

 ではここで、私が創造性とビジネス感覚を表していると思う劇団四季の事例をご紹介しましょう。私が劇団四季の事例を書いたのは少し前なのですが、これも感動から始まりました。実は15年ほど前に劇団四季の公演を観に行ったときに、非常にがっかりした記憶があります。その前にブロードウェイでミュージカルを観ていたのですが、日本に帰ってきて劇団四季の同じ作品を観たら、とてもがっかりしました。そのときのイメージが焼き付いていたので、たいしたことは無い、世界一流とはレベルが違うと思いこんでいたのです。それが5年前に、たまたま一度観に行ってみたら、期待していたより桁違いに素晴らしかった、これはすごい! と感動してしまったのです。

 それでどうしてこれほど良くなったのだろう、何が起こったのだろうと劇団四季のことを調べてみたのです。そうしたら、演劇業界という「水物」の業界、当たるか当たらないか不確実性の高い業界で、長年収益性を維持している。つまり「企業」としても素晴らしいことが分かったのです。さらに劇団四季のことを調べれば調べるほど、理解すればするほど、こんなに優れた経営をしているのかと感動の度合いが増してきました。

 劇団四季は、1953年に浅利慶太、日下武史など10人が学生時代に結成しています。劇団四季が創立した時の使命(ミッション)とビジョンは、公演を観たお客様に「生きる喜びを伝えたい」、お客様が「観て良かった、人生は生きるに足るものである」「人生は素晴らしい」という感動を持ち帰ってもらうというものでした。まずこの創業時の戦略やビジョンが素晴らしいと思いました。
 また、今年創立55年になるわけですが、今までの歴史を見ると、時代に合わせて戦略の詳細は常に更新しています。しかし、「人生は素晴らしい」「生きる喜びをみんなに伝えたい、それもなるべく多くの人に伝えたい」という使命感やビジョンは変わっていません。

●専用劇場で収益性を確保

 それでは、劇団四季の事業戦略に移りましょう。この業界は非常に不確実性が高いです。ファッション業界などとも似ていますが、当たるか当たらないかを事前にはあまり予想できませんし、もちろん、テスト・マーケットもできないことがほとんどです。それからこの種の業界は一般的に、クリエイティビティがカギだと言われます。だから創造性さえあれば、何とかなると思われています。しかし、組織として運営していくには利益がないと続けられません。ですから創造性だけではなく、収益性をどう維持するかが重要です。

 また、日本の演劇業界はインフラが整備されていません。ニューヨークのブロードウェイやロンドンのウエスト・エンドなど、演劇の分野では世界で一番ホットなところでは、俳優を養成する学校も沢山あり俳優は多数います。そうした環境の中で、公演ごとにオーディションが行われ、映画、テレビも含めて、いろいろな分野から多くの人がオーディションに来ます。一方、公演をするための資本は、投資家から出資してもらう。こうした活動をまとめるプロデューサーも、公演自体の監督をするディレクターも多数いるというように、公演をするために必要な各種のサービスが外部にあり、その人たちを集めてやるというスタイルです。劇場も数が多く、常に多数の公演が行われています。そしてやっている公演も非常に人気が高ければ長い間継続しますし、評判が悪ければ数日でクローズすることもあります。

 劇団四季が活動しはじめたとき日本では、松竹や東宝などの会社がスターを中心に演劇やミュージカル公演を興行するスタイルでした。プロデューサーやディレクターはこうした会社に所属していて、その会社が中心になって興行することがほとんど。一方には新劇があり、新劇は自分たちがやりたい「芸術作品」をやっていた。そこでは「創造性」が第一に重要視され、お客様の嗜好、お客様へのサービスという顧客指向はほとんど無かったと思います。劇場についてもいろいろな規制があり、やりにくい。しかし劇団四季は、こうしたインフラの不足、規制などの問題があっても、それにめげずにいろいろ新しいことをやってきています。そこが素晴らしいと思います。
その4に続く、全6回)

石倉洋子(いしくら・ようこ)
一橋大学大学院・国際企業戦略研究科教授。
1985~1992年マッキンゼー社にて企業戦略のコンサルティングに従事。青山学院大学・国際政治経済学部教授を経て現職。
著書に『世界級キャリアのつくり方』(東洋経済新報社)『戦略経営論』(同・訳)など。

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