【石倉洋子氏・講演】感動する力・感動させる力(その2)
東洋経済主催セミナー「Customer Satisfaction Forum 2008」より
講師:石倉洋子
2008年4月21日 大手町サンケイプラザ(東京)
●いいモノは売れるはずという前提は極めて20世紀的な発想
このように個人差があり、個人が対象である「経験」が感動の基礎であるとすると、その「経験」を実現し、個々のお客様に「感動」を与えるためには、多くの人がかかわってきます。多くの人のモチベーションや仕事への姿勢、お客様に対する態度、心構えが非常に重要になるわけです。工場でハード製品を作る場合と違って、多くの人が間に介在することになると、「プロセス」を重視しなければなりません。しかし、感動を提供する過程を重視するのは、実は企業や組織の側から言うと、非常に難しい。このプロセスをどうマネージするかが感動するサービスを提供できるか否かを決める大きなカギになると思います。また、日本では「いいモノは売れる」とよく言われていますが、私はそれだけでは今の時代、通用しないと思います。それは、「いい製品(モノ)は売れる」というのは供給者側の発想だと思うからです。一見謙遜で良いように聞こえますが、実は、お客様の本当のニーズをよく分かっていないのではと考えています。お客様の具体的なニーズ、顕在化していないが確かにあるニーズをよく理解していれば、それに対して私たちの製品やサービスはこう役立ちますと説明できます。提供している製品やサービスからお客様が得られる「体験」をビジュアルにイメージ・アップして説明できると思います。それに対して、「いいモノは売れるはずだ」という前提は、過激な表現ですが「20世紀的な幻想」なのではないかと感じます。
つまり、感動の基盤には徹底した顧客指向がある。スローガンとして「私たちはお客様のことを考えています」というのではなく、お客様の生活を良く知り潜在的なニーズを見出し、それに自社の製品やサービスがどう役に立つかを説明できるということです。感動を与えるためには、お客様の期待値を常に上回ることが不可欠です。お客様は「この製品やサービスを買ったら、このぐらいのことが得られる」という期待値を持っています。それを常に、そしてできれば桁が違うほど上回る。そうすると、感動が生まれるのだと思います。
それから二度とない経験をするのも感動を作る一つのやり方でしょう。「この経験は素晴らしかった。こんなことは今までに無かった。これはすごい!」というような経験をお客様にしていただく。期待値を上回るより、全然期待していなかった経験をお客様に提供する。そのためには、企業の活動を超えた高い「志」やビジョンが必要ではないかと思うのです。しかし志だけでは駄目で、それを実現するプロセスをしっかり管理しなくてはなりません。それぞれのお客様によって違うニーズに対して、期待していたレベルを超えた経験をしていただく。そのためには、多くの人が関係してくる複雑なプロセスの全体、すべての部分をきちんとマネージすることが必要です。
顧客指向が単なるスローガンではなく、創造性……クリエイティブな才能と、厳格さ……きちんとプロセスや実績を押さえることの両面から実現することが不可欠です。創造性だけではなくて、長期的に利益を追求するための、ビジネス感覚が必須なのだと思います。
(その3に続く、全6回)
石倉洋子(いしくら・ようこ)
一橋大学大学院・国際企業戦略研究科教授。
1985~1992年マッキンゼー社にて企業戦略のコンサルティングに従事。青山学院大学・国際政治経済学部教授を経て現職。
著書に『世界級キャリアのつくり方』(東洋経済新報社)『戦略経営論』(同・訳)など。
一橋大学大学院・国際企業戦略研究科教授。
1985~1992年マッキンゼー社にて企業戦略のコンサルティングに従事。青山学院大学・国際政治経済学部教授を経て現職。
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