【石倉洋子氏・講演】感動する力・感動させる力(その1)

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東洋経済主催セミナー「Customer Satisfaction Forum 2008」より
講師:石倉洋子
2008年4月21日 大手町サンケイプラザ(東京)

─「顧客満足」を超え、顧客に感動を与える企業への体現をテーマに掲げたフォーラム『感動を創る企業~+something発想で築く顧客満足の本質~』が、4月21日に開催された。ここでは、一橋大学大学院・国際企業戦略研究科の教授を務める石倉洋子氏の講演をお届けしていく。劇団四季の事例から導き出された、これからの企業が具備すべき「感動する力、感動させる力」とは何か。その一部始終を堪能いただきたい。─

●製品単体での勝負には限界がある

 今回はカスタマー・サティスファクション・セミナーということで、今なぜ「感動」が重要視されているのか、そして感動を作るにはどうすればいいのかを、劇団四季の事例を挙げてご紹介します。また、個人としてもどういうライフ・スタイルにすれば、周囲の情報や出来事に対して感度が高まるかをお伝えしたいと思います。「感動」するには心や気持ちの「感度」が高いことが必要だと思うからです。

 まず、今回の「感動する力、感動させる力」というテーマを伺ったとき、正直なところ何でこのテーマなのかな? と思ったのです。そこで、なぜ今、感動が重要視されているかという背景を考えてみました。今の時代は、新しいコンセプトを提供したり、社会全体のシステムを変えるイノベーションが非常に重要な時代。技術に関しては、今でも日本は非常に優れていると言われていますし、ハードの製品も世界的に力を持っています。しかしハードな製品や優れた技術だけで人を感動させられるかというと、必ずしもそうではなくなっていると思います。そこでカギになるのが、新しいコンセプトであり、全く新しい発想なのです。

 よく使われる例がアップルのiPodですが、iPodはモノというよりは、新しい生活スタイルであり、新しい行動パターンを提案しています。単なる製品ではなくて、買って使ってみると自分の生活行動様式が変わるので、そういう意味で非常に斬新です。ですからiPodが最初に出てきたときは、感動しましたね。「何だ、これは」と。

●個人を基盤に「経験」を提供する

 つまり感動というのは、「お客様が気付いていないけれど"こういうことができたら素晴らしいなあ"と思っていること」や「どう解決したら良いかはっきりとは分からないけれど、困っていること」を掘り起こして、どう製品やサービスにするかということだと思います。そうなると、今までの生活スタイルを前提として、ハードの製品単体で勝負しても限界があります。もっと新しい生活スタイルを実現させる、新しい生きがいを呼び起こすことが感動なのではないかと思うのです。

 では、感動を作るにはどうすればいいのか。当たり前ですが、それはやはりそれぞれの人の「経験」だと思います。製品を買いましたというのも一つの経験ですが、製品を使ってみて、どんなに役に立ったかとか、どんなに今まで苦労していたことが無くなってほっとしたかとか、使ってみる時にどんなにわくわくして胸が躍るか、そういうビビッドな感覚だと思います。感動が個人の「経験」から生まれるとなると、その場、その時間、その人が非常に重要。つまりマスを対象にするのではなく、お客様一人ひとり、個人を基盤にして考えないとならないわけです。ある人が感動したからといってほかの人が感動するとは限らないわけですから、個人差に対してどれだけ感度を持つかが基盤になってくると思います。

 最近、私が戦略について考える場合、グローバル3.0、ウェブ2.0の時代という事業環境を前提にします。グローバル3.0は、個人がグローバル化してくる時代のこと。それからウェブ2.0は皆様もよくご存知のように、どんな人でも世界に対して発信できる、そしてそれに共感する人が時間と距離を超えて、世界的につながる手段ができたということです。「個人」が見える時代、「個人」が力を持つ時代というわけです。
その2に続く、全6回)

石倉洋子(いしくら・ようこ)
一橋大学大学院・国際企業戦略研究科教授。
1985~1992年マッキンゼー社にて企業戦略のコンサルティングに従事。青山学院大学・国際政治経済学部教授を経て現職。
著書に『世界級キャリアのつくり方』(東洋経済新報社)『戦略経営論』(同・訳)など。

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