貯蓄型保険の宣伝を鵜呑みにできない理由 ノイズのような情報を避けるようにしよう

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4 「分散投資」「ドルコスト平均法」など運用に関する手法を紹介する

保険料を投資信託などで運用する「変額終身保険」「変額個人年金保険」等を紹介する際に、運用に関する一般的な手法が語られるのは、よくあることです。

たしかに資産を円だけでなく外貨で持つこと、預金だけでなく債券や株式にも分散して自己資金を投入するのは良いことだと思います。また、一定額を規則的に積み立てる「ドルコスト平均法」も、必ず成果が出るとは言えないとしても、一般の人にとって実行しやすい手法だと感じます。

とはいえ、保険で実行すべきではありません。先に書いた通り、手数料などのコストが高いからです。

筆者は変額保険を販売している保険会社で商品設計にかかわったことがある人に、「おカネを増やしたいのなら、投資信託で運用する保険より、投資信託で運用するほうが保険会社に払う手数料がかからないので、有利ですよね」と確認したことがあります。「もちろんです」と即答されました。

「難しいことが保険会社にとって大事なこと」

「債券で運用する部分と株式で運用する部分をわけるなど、仕組みが複雑な変額保険では、わかりづらい仕組みが手数料稼ぎに役立っているのではないか」という私見に対しても、「難しいことが保険会社にとって大事なことなのです」という回答でした。確かに、そういうことなのだろうと思います。

死亡保障がセットになっている「変額終身保険」などでは、「保障がある点を抜きに商品の評価はできない。投信などとは本質が違う」といった反論もあります。しかし、死亡保障を欲していない単身者に、老後資金準備目的での利用がすすめられている例も日常的に見かけます。勧誘を受ける人は「死亡保障におカネがかかる分、貯蓄性は落ちる」と認識してほしいと思います。

今回、保険会社で商品設計にかかわっている人たちの証言を意識的に引用しました。営業部門では教えられていないことが多いからです。返戻率や外貨の金利の評価を額面どおりに行ってはいけないことは「おカネに関する常識」ですが、営業部門では浸透していません。

特に手数料などの「コスト」が、貯蓄商品の品質を下げる要因である点は触れられない傾向があります。当然、お客様にも伝えられていないでしょう。

長期金利が低迷する中、貯蓄商品は、今後、さらに値上げされる予定です(「『外貨でおカネが増やせる』と案内している保険会社なら、外貨建て資産を増やすだけで値上げは見送ることができるのではないか?」と突っ込みたいところです)。

「値上げ前に是非ご加入ください」といったセールストークも考えられます。「生命保険料控除」の対象であることから、節税メリットを説く話法も繰り返されるでしょう。しかし、それらは高いコストがもたらすデメリットに比べると、注目すべきものではありません。「値上げ前に」と保険会社の人たちが駆け込みで貯蓄商品に加入したのはもう20年以上前のことです。

保険の価値は、不測の事態に備える「保障」機能にあります。保険での貯蓄は、本来、考えなくていいはずなのです。

後田 亨 オフィスバトン「保険相談室」代表

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うしろだ とおる / Tooru Ushiroda

1959年、長崎県出身。長崎大学経済学部卒。1995年、アパレルメーカーから日本生命へ転職。営業職、複数の保険会社の商品を扱う代理店を経て2012年に独立。現在はオフィスバトン「保険相談室」代表として執筆やセミナー講師、個人向け有料相談を手掛ける。『「保険のプロ」が生命保険に入らないもっともな理由』(青春出版社)ほか、著書・メディア掲載多数。

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