若者と芸術をつなぐ、能楽界のネットワーカー

新世代リーダー 塩津圭介 喜多流シテ方能楽師

そうほほ笑む圭介氏は、実際、演者としての厳しい修業と並行して、能楽のスポークスマンとしても活発に活動を行っている。同世代の若者たちに興味を持ってもらえるよう、最初にホームページを立ち上げて能の紹介を始めたのは、まだ高校生だった17歳のときのことだ。また、仲間とともに実行委員会を組織し、「若者能」と命名した催しをスタート。大学生を中心に据えた「若者の、若者による、若者のための」能公演は大きな話題となり、第8回目が開催された2013年までに、参加者は延べ3000名にも上っている。

流派の本公演ではありえないトークコーナーの導入や、理解しやすいパンフレットの制作に加え、2013年には、果敢にも公演中のツイッター解説という極めて斬新な試みを取り入れた。伝統の本質を守りながらも、随所に散りばめられる楽しい工夫。若者世代への普及とメディアにおける話題作りという点において、その貢献度の大きさは計り知れない。

出る杭は打たれるが、「出すぎた杭」は打たれない

しかしながら、世間の注目を集めれば集めるほど、「出る杭は打たれる」ように見えるのも確かだ。閉じた専門的な世界で、芸を磨くことだけに人生をかける職人集団。そんな能楽界においては、40代ですらまだ「若手」とみなされ、それ以前の「半人前」が目立つことは極めて異例なのだろう。若い圭介氏が、従来の型を破って次々に新しいチャレンジを行うためには、高い志とともに、「出すぎた杭は打たれない」と開き直るほどの、大きな覚悟が必要だったに違いない。

「能楽の世界と世間一般では、異なる時間が流れています。700年の歴史を持つ能の世界では、物事がゆっくりと熟成していく。現代社会では、何もかもが合理化され、短縮され、手軽にすぐに“答”を出そうとしますが、能の価値観はそれとは間逆なのです。能は、頭だけを使って“知る”ものではなく、身体ごと“感じる”もの。それでこそ、心の深い部分において、何かとても大切な体験が引き起こされるのだと思っています」

有機的な時間の流れとアナログな全体性。「すぐには答えが出ない」「割り切れない」ことを通じて、心を磨いていくというその世界観は、能が体現する古き日本文化の美意識でもある。よって、「よい職人」ほど新しい方法に対して懐疑的であり、情報発信力に欠けることが多いであろうことは、想像に難くない。能の未来に危機感を持っている人も少なく、解決方法を求めうる人は、さらにまれではないだろうか。だが、従来の習慣に頼るだけでは、能はやがて衰退の憂き目に直面してしまうに違いない。

「能楽界は同じ商品を扱う個人商店の集まりのようなもの。今、必要なのは、他店のにぎわいをうらやむことではなく、協力しあって商店街そのものを振興させることなのです。いろいろとジレンマもありますが、能という芸術にはネガティブな要素がまったくない。こんなすばらしいものは、ほかにはないのではとさえ思う。“職人の気持ちがわかる”方に限りますが、他業界の方々の協力も得ながら、やれることは何でもやっていきたいと考えています」

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