若者と芸術をつなぐ、能楽界のネットワーカー 新世代リーダー 塩津圭介 喜多流シテ方能楽師

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能を、過去と未来をつなぐ「交流の磁場」へ

「塩津家は、駅伝チームのようなものです。大正から昭和にかけての区間を走り抜けた祖父と、昭和から平成へと、今も全力疾走を続ける父。その父からタスキを受け取り、次の時代へとしっかり引き継ぐのが自分の役目です」

和の文化そのものが急速に失われつつある現代。この特殊な「区間」は、走者にとって決してたやすい道ではないだろう。変化の荒波にもまれる「今」を生き抜き、能の伝統とその本質を次代につないでいくためには、芸の道を極めながらも、広く社会全体に向けて開かれた「扉」としての役割をも果たしていかねばならない。

「能楽堂がいい意味でのサロンになれば、と願っているんです。若い世代はネットに依存していて、リアルな交流の場が少ない。普段は出会わない異なる世代が出会い、接点のない人同士が交歓するような、そんな“架け橋”になれればうれしいと思っています」

かつては神に捧げられた能楽。それは、高い精神性によって「異界と現世をつなぐ」という希有な芸能である。緊張感あふれるその芸術スタイルは、やがて、武家の庇護の下で大輪の華を咲かせ、国境を越えてさまざまな国の知識人たちをも魅了していった。そして今や、スピードと変化に倦み疲れた現代人のために、「世代を超えた交流の磁場」へと変容しつつあるようだ。

「偉大なる父」から、約半世紀も後に生まれた若き継承者――。真っすぐな目をした、清々しい青年の肩にかかる社会的な役割は、かつてないほど大きく、深い。

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