若者と芸術をつなぐ、能楽界のネットワーカー 新世代リーダー 塩津圭介 喜多流シテ方能楽師

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しかし、ある時期、立て続けに「導き」が訪れる。それは、周囲の異業種の人々から寄せられた素直な心の声だった。優秀な実業家である知人は、「能楽師になる」という選択肢を、「義務ではなく可能性である」と教えてくれた。また、医師を目指していた友人からは、「芸術が与える感動こそ、人の心を救いうる」と気づかされる。

「なすべきことがあるということは、ありがたいことです。人を感動させる術を持っているということは、すばらしい。自分は恵まれているのだと、あらためて認識しました」

そして、同じ頃、決定的な「ある感覚」が圭介氏を直撃する。父・哲生氏の舞台から、神秘的とさえ表現したくなるような威圧感と、名状しがたい気迫を感じ取ったのだ。
「言葉で表現するのはとても難しい。ですが、能の舞台には、人間存在の根本にかかわるような“気”の力が立ち込めていると体感したのです」

血筋からの強制ではなく、習慣による重圧でもなく、自由な意思をもって現代を生きるひとりの若者として、圭介氏が自ら能楽の道を選びとった瞬間である。

主役のシテ方とは、「プロデューサー兼主役」である

能は、グループによる芸術だ。ひとつの舞台を成立させるためには、異なる役割を持つ約20名のスタッフが一致団結しなくてはならない。そして、その仕組みは完全に分業制である。つまり、相手役である「ワキ方」が、主役であるシテ方を務めることは絶対にありえない。4種類の楽器からなる「囃方(はやしかた)」も同様で、それぞれの専門家が担当する。そんな構図の中、主役であるシテ方は、仕舞(しまい)や地謡(じうたい)もこなし、楽屋での裏方も担当するなど、何とおりもの役割を担うのが習いだ。

「シテ方の家は、公演のプロデューサー的な役割も果たさなければなりません。経費的なリスクを負い、会場を確保する。キャスティングを行い、チケットを手配し、そのほかさまざまな雑務もすべて自分たちで行います。まるで小さな広告代理店のようなものです」

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