大再編時代へ突入した大手生保  日生と第一、分かれる大手生保の戦略

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郵便局チャネル争奪戦と業界再編への胎動

海外での大型M&Aという夢はさておけば、「国内で伸びている医療保険や年金保険でどう収益を上げていくか」(日本生命・筒井義信常務)が各社共通の課題だ。その主戦場となるチャネルが銀行窓販であり、新たに登場してきたのが2万4000拠点の郵便局である。

先に、この分野で攻勢をかけたのは、住生だ。変額年金で採用4社のうちに入り、医療保険でも法人向け保険でも食い込んだ。日本郵政のトップに三井住友フィナンシャルグループから西川善文氏が就任したときから住友グループには有利に働いている。郵便局会社の寺阪元之社長は住生出身だ。もっとも、住生は銀行窓販で、すでに実績を上げているから、それが買われた面もある。アフラックなど外資も食い込み中だ。

そこへ日生が「かんぽとの提携によって橋頭堡を築く」(日生・筒井常務)手段に出た。提携発表の場で日生の岡本社長は「郵便局会社様」という言葉を連発した。歴史的に、旧郵政公社時代も、簡保と民間生保との間は郵貯と民間銀行との間よりも協調的な関係で、特に、料率変更や予定利率変更など重要なことは簡保と日生で握ってきた経緯もある。

今回の提携ではかんぽの商品開発のためのノウハウ提供やリスク管理・マーケティング方策での支援などがうたわれているが、目玉はなんといっても、事務・システムの構築。「商品のOEM的なお話は他社からもあったが、日生は設計の基礎書類だけではなく、引き受けから支払い、契約管理までの事務・システムの構築までトータルで提供することが決め手となった。日生には情報システム子会社の存在もあった」(かんぽ生命・加藤進康経営企画部長)とする。新分野へ出るにも民営化委員会のチェックも厳しく、金融庁への認可申請も含めて内部体制の強化への助けは必要不可欠だった。

「一連の生保の生命線となるインフラの部分の構築」(筒井常務)を担うところまでサービスし、1年という早いスピードで商品開発をするとなれば、他社が新たに入り込みにくいという読みが、日生にはある。

郵便局会社としても、かんぽブランドの商品を売りたいという気持ちはやまやま。代理店としての郵便局へのサポートで、日生には局外者へのアクセスのチャンスもより拡大する。

面白いのは日生が郵便局会社が募集し、望んでいた元本保証型の変額年金を提供しなかったこと。元本保証型は、顧客が好むので、銀行窓販では最も人気のある商品だが、相場が下落すると、保険会社にリスクが発生する。実際、責任準備金の積み増しや増資を迫られたケースは多い。一方、ヘッジや再保険を手当てすれば、コストがかかるので、顧客に転嫁せざるをえず、売りにくくなる。保守的な日生は消耗戦を避けたのである。その日生が局会社が売りやすいような「シンプルでわかりやすい医療保険」(筒井常務)をかんぽに提供できるのか、他社は注目している。

4社が相互会社のまま相似形のビジネスモデルを続ければ、守りに強い日生は首位であり続ける。逆にいえば、万年2位の第一はこの枠組みを壊す賭けに出た。かんぽの上場も絡んで生き残りをかけた競争、再編へ向けた生保の動きが再び活発化しそうだ。

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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