大再編時代へ突入した大手生保  日生と第一、分かれる大手生保の戦略

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昨年12月、第一生命が株式会社化と持ち株会社化を行い、2010年には上場すると発表し、生保業界には大きな動揺が走った。株式会社化にかかるコストが大きすぎて、大手4社は踏み切れないと見られてきたので、そのコストに見合う大型買収案件を想定しているのかと、憶測を呼んだからだ。斎藤勝利社長は06年の会社法改正に言及し、株式交換によるM&Aを示唆した。

業界関係者が思い浮かべたのはかんぽ生命の存在である。総資産は112兆円と民間生保最大手の日本生命の2倍強を誇る巨人。だが、養老保険と学資保険に業務を制限されてきたため、新分野の商品を開発するノウハウやシステムもない。コンプライアンスなど内部管理に問題を抱え、07年度の郵政行政審議会による業績評価は「C」。08年2月には初の金融庁検査を控えていた。このままでは11年度以降に予定されている上場など不可能で、民間生保に支援を打診していたのである。「上場する第一生命とかんぽとの持ち合いがありうるのでは」とのうがった見方まで出た。しかし、年明け2月、かんぽは日生との提携を発表する。

グローバルな投資機会を見つけるのは難しい

「ただ大きくなりたいとは考えていない。それよりも視野がグローバルに広がっている」と第一の斎藤社長。「相互会社のままで、資本を使ってリスクをとり、多角化や海外進出をすることは、ある投資規模を超えてくると契約者の納得が得られない」(第一・渡邉光一郎専務)とする。

相互会社は保険契約者=社員のもので、社員自治を基本とし、一人1票を持つ総代会が意思決定機関だ。しかし、生保が大規模化した今日では総代会は形骸化し、業法改正で株式会社との違いも薄れ、相互会社の理念は失われている。

少子高齢化が進む中で、大手生保の毎年の新契約は死亡保障商品の衰退により、減少の一途。結果、民間生保の保有契約(個人保険)は1996年の1496兆円をピークに減少を続け、20年には半分近くに減る見通しだ。保険が売れなくても潰れることはないが、「若い職員に縮小均衡とはいえない」と第一の経営陣は言う。「大きな転換点にある中で10年後を見据えて、成長を可能にしたい。そのための数百億円のコストなど、純資産規模5兆円の当社にとり、大した話ではない」(渡邉専務)というわけだ。確かに、決めてしまえば、誕生する株主300万人と想定される巨大な株式公開の実務も、株主総会を開くための安定株主づくりも、総会の開催の実現も、幹事の野村証券や東証をはじめ関係者が知恵を絞ってなんとかするのだろう。

ただ、T&Dホールディングスの配当から計算すると、第一には年間400億~500億円の株主配当が要求されよう。毎年そのキャッシュアウトに耐えうる利益成長を得られるような投資機会があるだろうか。上場企業の多くが投資機会がないままに自社株消却を迫られている。

「グローバルに展開している保険会社に相互会社はない」(渡邉専務)のは確か。だが株式会社であればグローバルに成功するわけではない。日本の金融機関はその点、全滅状態だ。切った張ったで、最も経験を積んできた野村グループも、またもや米国から撤収。みずほフィナンシャルグループもサブプライム関連で約6000億円の損を出し、メリルリンチへの出資も12億ドルでは中途半端だ。外国人を使うことはまず困難で、「大田淵」こと野村証券の田淵節也元会長は、日経新聞連載の「私の履歴書」の中で「出資をして配当をもらうつもりでないと(グローバル投資は)うまくいかない」と述べている。それでも、資本を食い潰され大損を被ることも。ドメスティックなザ・セイホに、「何ができるのか」という声も出る。

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