では従業員は何を学ぶのか。鈴木氏によれば最初に教えるのは、「信頼」と「敬意」だという。「全員がこれから始まります。自分からあいさつする、相手のために働くとか、ほんとに基本的なことから始まります」(同氏)。
この基本をベースに全員が学ぶのが「リーダーの影」「今に集中する」「相手に悪意がないことを前提に考える」という3つの考え方だ。
鈴木氏は言う。
娘との会話で学んだこと
「リーダーの陰」についてお話しします。これは実際の話で娘が小さかった頃のことです。よく友達を連れてきて遊んでいました。仲良く遊んでいるなと思ったら、娘が友達に向かって「バカ、何やってんの」と言ったんです。ちょっと気になって友達が帰った後、「さっき、なんでバカって言ったの」って聞いたら、「わかんない。ただ遊んでいただけ」と娘は話す。「友達にばかって言っちゃだめだよ」と教えました。
数日後も、娘が友達と家で遊んでいたら、また「バカ、何やってんの」って言ったんですよ。それで友達が帰ったあとに、「また、ばかって言ったよね」と怒った。そしたら娘は「もうしない」と半べそになりながら謝りました。
そのことを妻に話したんです。「あいつは、バカってよく言ってるだろう。注意しているか」と。そしたら妻は少し考えてから、「あなたもよく言っているわ」と言いました。私は言っているつもりはなかったのですが、妻によれば「会社の人から電話かかってきたとき、“バカ何やってんだ”と言った」らしいんですね。
何を伝えたいかというと、「人は無意識のうちに、他人に影響を与えている」ということです。
鈴木氏の場合、奥さんの指摘を受けて、自分が無意識に「バカ」という言葉を使っており、それを娘がまねていることに気づいた。自分の前に映った影はよく見えるが、後ろに映る影はなかなか見えない。ましてや、上司と部下という関係の中でこういったことを行うのは難しい。
マクドナルドはリーダーの究極的な仕事は「後進の育成」にあると考えている。「そのために必要なことは、良質なフィードバックをつねに与えること、良質な判断をすること。その妨げになってしまう要素を排除しましょう」という狙いがあると鈴木氏は解説する。
同じように「今に集中する」とは、部下が話かけてきたときと、上司が話しかけてきたとき、同じ態度をとれるかどうか。「相手に悪意がないことを前提に考える」こともなるべく前提条件や判断を曇らせるような材料を取り除くことで、良質なフィードバックを得ることが狙いだ。リーダーのコミュニケーション能力を徹底的に底上げすることが目標である。
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