「豊島区再生」に挑む日本一有名な大家の手腕 消滅可能性都市から脱せるか

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だが、住宅への転換が儲かるかと言えば残念ながら答えはノー。都内の新築アパートの3割が空室という時代に、勧められるままに建てた無個性なアパートが収益を上げる可能性は低い。本当に儲けたいのであれば、相続税が一時的に低くなるだけの対策ではなく、長くその街の価値を維持し続けてくれる活用を考えるべきである。収益を上げるためには、「場」を作ったうえで、その価値を維持し続ける仕組みが必要なのだ。

青木氏のロイヤルアネックスを見ればそれがわかるはずだ。「壁紙を好きに選べる」「間取りから自由に作れる」という言葉だけ聞くと、ハードだけの施策に聞こえるが、最終的に壁の色を選ぶには時間をかけたやり取りが必要だ。そしてそれを通じて、大家と入居者や、入居者同士に人間関係が生まれ、それが居心地の良い環境につながる。

若い世代の大家が街を変えていく

もっとも、街づくりやアパート経営はそんなに単純ではないようだ。ロイヤルアネックスを全国随一の「借りたいマンション」に育て上げた青木氏だが、実は登記簿を見ると、2016年6月23日付で、ロイヤルアネックスを経営する会社から外されているのだ。今や立派な「収益物件」となったロイヤルアネックスを自分のモノにしてもっと効率的に稼ごうと考えた親族がいたのだろう。

もちろん、青木氏がここで諦めることはなく、同氏はこれを期に新たな試みを始めようとしている。それが11月から始まる「大家の学校」だ。かつての谷根千や最近の清澄白河、松陰神社前を見ればわかるが、空き家や使われていなかった土地が活用され、人が集まり始めると街は変わり始める。建物単位で空室を埋めるのではなく、地域の魅力を引き上げることで、街にある建物の価値を高める活動を大家が自ら始めよう、というのが学校のコンセプトだ。今後、相続などで大家となる若い世代が地域を考えた賃貸経営をするようになれば、面白い街が増えるかもしれない。

青木氏のように、建物や土地を再生する人物が疎まれるのは、実は珍しい話ではない。DIYを条件に貸した老朽家屋がよみがえったのを見て入居者に退去を迫る大家や、地域活性化のために移住してきた人たちの追い出しを図る地主など、似たような話は色々なところに転がっている。不動産や街の課題は、その所有者やそこに住む人たち自体が問題ということも少なくないのである。

中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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