ノーベル賞大隅氏が説く、「役に立つ」の弊害

「面白いから研究する」という人が減っている

とくに神経疾患で、オートファジーの機能低下が原因ではないかと考えられているものがある。たとえばパーキンソン病には、脳の内部にゴミがたまるとなりやすいと考えられている。神経細胞はほとんど分裂しないので、オートファジーの影響が最も顕著に表れる部分。老化が進むとオートファジーの活性が低下することはわかっているから、これを亢進させてやると治療の可能性が見えてくる。

もうひとつはがん。がん細胞のオートファジー機能をブロックすることでがん細胞の増殖を止めることができる。また、ある種のがんでは、直接の原因かどうかは別として、オートファジーの機能が欠損しているケースもある。こういった研究はすでに欧米の製薬会社などで始まっている。

基本的な生命機能、高齢化にも重要な関わり

また、生命の発生初期に受精卵でオートファジーが働かないと、分裂が進まず成長できない。このようにオートファジーは生命機能のいろいろなところに関わっている。

生物学的には生殖が終われば生物は死んでいくもの。だが、現在、人間社会では高齢化が進み、老人特有の病気が増えている。QOL(クオリティオブライフ、生活の質)を高めるためにも、オートファジーの働きは重要になる。タンパク質の合成と分解のバランスが崩れてしまうということは、生物としてダメになるということだから。

――今後の研究は。

不要になったタンパク質などを包む膜がどうやってできるか、などまだ謎も多い。最近ではオートファジーの始動装置を構築するメカニズムを解明し、今年6月に論文を発表している。こうして少しずつ謎が解けてきている。オートファジーの全容解明を進め、始動機構を完全に理解することで、オートファジーを特異的に制御する薬剤開発に寄与できると考えている。

<オートファジーをベースとした医薬品開発>
NIH(アメリカ国立衛生研究所)の臨床試験情報ページによると、オートファジーの医療応用の研究は、米国、欧州を中心に世界中で47件の臨床試験(ヒトに対する試験)が進行中である。研究テーマはがんに関するものがほとんどで、対象とする疾患は、前立腺がんや骨髄・白血球のがん、非小細胞肺がんなどが多い。また、乳がんなどのバイオマーカーや、ALSなど神経性疾患、肝炎などウイルス性疾患、高齢者の新血管疾患やメタボリックなど、非常に幅広い。
アメリカでの研究が30件超と最も多く、欧州でもフランスとオランダを中心に10数件、アジアでは台湾で3件あるだけ。お膝元の国内では、臨床試験に至っている研究はまだないようだ。
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