ノーベル賞大隅氏が説く、「役に立つ」の弊害 「面白いから研究する」という人が減っている

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オートファジーについて説明するノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典東京工業大学栄誉教授(撮影:尾形文繁)
2016年ノーベル生理学・医学賞は、大隅良典東京工業大学栄誉教授に決まった。生理学・医学賞で日本人の受賞は、昨年の大村智北里大学名誉教授に続いて4人目、2年連続となる。
受賞理由は、オートファジーの機構の解明。「自分自身を食べる」という意味を持つオートファジーはここ数年、生命科学分野で大きな注目を集めている。生物の細胞内部のタンパク質リサイクルシステムのうち、分解に関わるメカニズムを、出芽酵母という植物性の単細胞生物の研究から解明した。機構解明によって、医薬医療分野への新たな展開も見え始めた。
米国を中心に海外ではすでに47件のオートファジーをベースとした医薬品開発のための臨床試験が進行中で、その裾野の広がりは大きい。以下は、ノーベル賞受賞決定に先立つ今夏の大隅栄誉教授へのインタビューだ。

基礎生物学者として「原点となる研究が認められた」

――これまで数多くの受賞があるが、2013年にトムソン・ロイター(現クラリベイト・アナリティクス)の引用栄誉賞受賞以降、慶應医学賞(2015年)や国際ポール・ヤンセン生物医学研究賞(2016年)など医学・医薬系の受賞もあった。

医学医薬関係の賞をいただくことは想像していなかった。私自身は基礎生物学者なので、自分で薬を作り出すわけではない。が、オートファジーが大切な生命機能だということは理解されていて、その原点となる研究を認めていただいた、ということで自分では納得している。

そもそも研究というものは、最初から何かはっきりした目的があって始めるものではない。私自身も、医学領域に必ず役立てようなどと考えて始めたわけではない。いろいろな人がそれぞれの関心に従って研究を続けていくことで、いろいろな領域が開かれていく。私の場合は、その原点のような仕事として評価しもらえた、ということだろう。

――オートファジーの研究はどのように始めたのか。

オートファジー自体は、1960年代に米国ロックフェラー研究所でクリスチャン・ド・デューブのグループが観察している。だが、それから30年近くも、なぜそうことが起こるのか、どういう遺伝子やタンパク質が働いているのかまったくわからない時代が続いていた。

<オートファジーとは>
生物の体内では、タンパク質の合成と分解のバランスが保たれている。ヒトの体の中では毎日300~400gのタンパク質が必要とされるが、食事から摂取するタンパク質は70~80g程度。残りは体内でタンパク質を合成して補っている。遭難などによって絶食状態となっても、水だけあれば10日程度生きていられるのは、体内で重要なタンパク質を作り続けるしくみがあるからだ。
このしくみのなかで、分解を受け持つのがオートファジーだと考えられている。細胞の内部を構成しているミトコンドリアや小胞体などの細胞小器官、細胞質(細胞の中に詰まっているタンパク質)は一定期間がたつと入れ替わる。この入れ替わりに大きな役割を果たしている。
細胞の中にある小器官や細胞質が古くなったり傷がついたりすると、どこからか現れた膜に包まれる(オートファゴソーム)。これがタンパク質分解酵素を内包する液胞と融合して、膜の内部のタンパク質がアミノ酸に分解される。アミノ酸は膜の排出システム(トランスポーター)によって膜から出され、膜の中には分解酵素が残る。膜の外に出たアミノ酸は、細胞内で新しいタンパク質を合成するための栄養として使われる。
大隅栄誉教授の研究の中核は、出芽酵母という植物性単細胞生物であり、動物の研究は水島昇東京大学教授らが中心となっている。
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