「新型出生前診断」による"命の選別"の不安 障害児の排除につながらないか
1960年代以降、超音波検査、羊水検査、母体血清マーカー検査といった出生前診断の技術が次々に開発され、「選択的中絶」が技術上は可能になった。これらの技術が「不良な子孫の出生を防止する」といった優生思想につながるのではないかという懸念もある。
テクノロジーが生み出す脅威に加え、相模原の事件を皮切りに障害のある人全般への風当たりが強まったら……。いま、ダウン症の人をはじめとする当事者たちは揺れている。
日本ダウン症協会代表理事の玉井邦夫さんは、「出生前診断という技術に関して、個々人の判断に協会として何らコメントするつもりはない」と前置きしたうえでこう訴えた。
「ダウン症のある子どもは生まれてくる必要がない、という社会的通念を作り出すような検査体制には反対します。想像してみてください。さまざまな障害のある子どもと泣いたり笑ったりしながら生活してきた子どもと、『そんな子はいなくていい』という考えを当然として育ってきた子ども。どちらに将来の社会をつくってほしいですか」
事件直後から、メディアには「事件は社会の写し鏡」「内なる優生思想は私たちの中にもある」といった内省の声が上がった。実際、出生前診断による「選択的中絶」が広がり、就労現場には生産能力がないとみなされた人がはじき出される「無駄排除」の風潮がある。そうした空気は、加害者と底流ではどこかつながっているのではないだろうか──。
「次」を急かされ傷つく
生活保護の人の相談活動も行う弁護士の足立恵佳さん(41)は、こういう現代の風潮には、障害のない人たちにとっても生きづらいギスギスした世の中で、「自分自身もいつ転落するか……」という恐れが反映されているのではという。
「多様性を包み込む『インクルーシブ』という言葉は躍っていても、現実の企業社会では、労働者は経済価値をはかられ、『マタハラ』もある。病児を抱えて共働きなどできないような空気が蔓延しています。出生前診断というと、妊婦さんの『選択』がクローズアップされがちですが、むしろ今の妊婦さんは、排除する側にも、される側にも、どちらにもなりうるリスクを背負わされて困っているように見えることもあります」
都内でヨガスタジオを主宰する女性(37)には、生まれてからダウン症だと診断された長女(8)がいる。今年、小学2年生になった。
出産後、女性は医師からのこんな言葉に傷ついた。
「お母さん、若いから『次』がんばりましょうよ」