「新型出生前診断」による"命の選別"の不安 障害児の排除につながらないか

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女性自身、当初は家族にどんな未来が待ち受けているのかを想像できず、長女の障害と向き合えるまでに時間が必要だった。けれど目の前には、懸命に生きようとする娘がいた。悪意はないにせよ、その命を素通りして「次」を急かすような医師の言葉は、「『この子と』どう生きる?」を模索する家族として、決して励ましにはならなかったと言う。

精神科医の香山リカさんのもとには、出生前診断で「選択」をした人が、「私の選択で1つの命を失ってしまった」と自分を責め、うつ状態になって診察室を訪れることがあるという。

胎児の染色体の異常を指摘されたある女性が事前に提供された情報は、心臓奇形や知的障害の可能性など医学的なリスクの羅列だった。ところが、妊娠12週から21週の期間に行う「中期中絶」に踏み切ったところ、対面した赤ちゃんはとてもきれいで、その姿を目にした瞬間に、後悔の気持ちで胸が押しつぶされそうになったという。

香山さんは、産む、産まないどちらの選択をしたとしても、「選択後」のその人の人生に寄り添うような医療者の言葉と、情報提供の大切さを説く。

「胎児異常による人工妊娠中絶は、日本の法律上では違法扱い。なので、実質的には母体保護法の『経済的理由』(経済的に育てられないから)に押し込める形で、妊娠した女性の希望、もしくは医師の裁量で人工中絶が行われているんです。妊婦さんが自己決定するにしても、判断の手がかりとなるような適切な情報がなければ選べないし、後で大きく悔やむことになりかねません」

NIPTについては、遺伝カウンセリングや周産期医療の提供体制を整えたうえで行う検査であることを日本産科婦人科学会は定めている。さらに、日本医学会に登録することが原則であることも、厚生労働省は周知している。

なし崩しではいけない

ところが、民間業者が主体となり、無届けで検査を行う施設が出てきた。今年9月からイギリスの検査会社と提携する日本の業者を窓口として、NIPTの検査の提供を開始したことが発覚。そのあっせん業者のホームページを見ると、「国内価格の半額」「年齢制限なし」「性別の判定も可能」などと宣伝文句が並び、遺伝カウンセリングは行われていない。電話で予約を受け付け、採血は、東京では産婦人科医ではなく放射線科医が院長を務めるクリニックで行われていることもわかった。

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