生命保険の付加保険料率は正当化できるのか 競馬などと比べて胴元の取り分が大きすぎる

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ギャンブルと保険では、そこに絡む思いがまったく異なることは、私も理解しているつもりです。10数年に及ぶ営業マン時代に、死亡保険金、がんや急性心筋梗塞の給付金、病気やケガの入院給付金などの支払い手続きにかかわったことは数え切れません。お客様に涙を流して感謝されたこともありますし、近年も保険相談にいらした方々の肉声に接する機会は日常的にあります。

そして、切実な思いなどを知るほど考えてしまうのです。ギャンブルも保険も

①ある確率で発生する事態に応じて利用者におカネが払い戻しされる仕組みである

②その仕組みを運営する組織が差し引く運営費の分、(運営側が料金設定の間違いでもしないかぎり)利用者全体の収支はマイナスになる

点は同じです。すると「ギャンブルはほどほどに」と言われ、「保険は入っておけば安心」とされがちなことが、わからなくなるのです。

ギャンブル以上におカネを失いやすい仕組みとも…

ギャンブルにおカネを使う際、節度が求められるのは、控除率の数字などを知らない人たちにも「おカネを失いやすい仕組み」である、という認識が浸透しているからでしょう。

ところが、先の試算などから、保険はギャンブル以上におカネを失いやすい仕組みと見ることも出来るのです。

「老後に給付を受ける機会が増える点がまったく違う。保険は高齢者を守ることが出来る」と言う人もいます。しかし、老後に手厚い保障を確保するには、保険料負担も増えます。

「勝率が高くなるからと言って、控除率が高いギャンブルに使うおカネの額を増やすのは賢明か? トータルで参加者が勝利することが明らかであれば、胴元は営業をやめるはずだ」と考えなくていいのでしょうか。

ほかにも「保険に入っていて本当に救われた。保険には損得勘定では測れない価値がある」「保険に守られているという安心感は代えがたいものがある」といった反論なども、全面的に否定するつもりはありません。

それでも「家族のために」「いざという時におカネの心配をしなくて済むように」「周囲に迷惑を掛けたくないから」といったさまざまな思いに注目することで、見えにくくなっていることもあるのではないでしょうか。

私は、保険に加入している人・加入を検討している人には「保険会社の取り分」について意識的になってほしいと思います。ギャンブルにおカネを使う人より「おカネを大事にしたい」という気持ちが強いだろうと想像するからです。

ちなみに、保険会社で働く保険に精通している人たちが愛用している保険は、先に触れた「団体保険」です。それは、私が知るかぎり、もっとも控除率が少ない保険です。営業担当者による訪問販売や保険ショップでの展開をしていないため、コストが抑えられているのです。あえて損得という言葉を使うと、加入者にとっての損がきわめて少ない保険です。

保険に関する知見が豊富な人たちでも、家族を思う気持ちなどはお客様と変わらないはずです。保険加入がもたらす安心感についても十分理解しているに違いありません。ただ、自身のおカネが絡むことなので、冷徹な判断がなされているのでしょう。何度でもお伝えしたい事実です。

後田 亨 オフィスバトン「保険相談室」代表

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うしろだ とおる / Tooru Ushiroda

1959年、長崎県出身。長崎大学経済学部卒。1995年、アパレルメーカーから日本生命へ転職。営業職、複数の保険会社の商品を扱う代理店を経て2012年に独立。現在はオフィスバトン「保険相談室」代表として執筆やセミナー講師、個人向け有料相談を手掛ける。『「保険のプロ」が生命保険に入らないもっともな理由』(青春出版社)ほか、著書・メディア掲載多数。

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