TPP推進の根底にある経済学の思想は、「国内的にも国際的にでも分業を拡大することで、皆がより豊かになれるはずだ」という考え方である。したがって、輸出入の差し引きは元々ほぼトントンで良いのである。これについては、また回を改めて考察したい。
「花見酒」は悪いこと?
貿易を巡る議論では、「輸出の増加は良いことで、輸入が増加するのは悪いことだ」という論調になりがちで、どうしてもTPPへの参加で輸出が増えて日本は得をすると考えてしまう傾向にある。その発端は、日本の1960年代以降の高度成長期が花見酒に例えられたことにあるのではないかと思う。
落語「花見酒」を題材とした「花見酒の経済」(笠信太郎、1962年)は、国内消費の拡大で起こった高度成長の繁栄があだ花ではないかと警告したものだ。日本経済は拡大したように見えるが、自分たちで作ったものを自分で買って消費してしまうのでは、実は何も生産していないのではないかと批判した。以来、実体を伴わない好景気は、繰り返し「花見酒」に例えられるようになった。
1980年代後半のバブル景気の最中には、土地や株などの資産が、同じ人達の間で繰り返し売買される間に価格だけがどんどん上がっていくということが「花見酒」にたとえられた。バブル景気の資産価格の上昇は確かに実体の無いものだった。しかし、元の花見酒の話自体は、実は意外にもちゃんとした生産活動なのだ。
落語の花見酒は、二人の男が酒を仕入れて花見客に売ってひともうけしようと企むが、酒を運んでいく途中で、自分達で酒を買って全て飲んでしまい、もうけ損なうという話だ。「花見酒の経済」の主張は、酒を自分達で飲んでしまうのでは意味が無く、花見客に売ってもうけることで初めて意味があるという考えだろう。しかし元になっている花見酒の話で、本当に何も生産されなかったのかは、良く考えてみる必要がある。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら