「3人の親」を持つ子、その可能性と問題点 生命倫理を揺るがす科学技術がまたひとつ
母親の病気が遺伝するのを避けるため、第三者のミトコンドリアを使う技術で赤ちゃんが生まれた。健康な子を望む夫婦には朗報だが、問題はないのか。
9月27日、英科学誌ニューサイエンティストは、米ニューヨークにあるニューホープ不妊センターのジョン・ザンらのチームが、3人分のDNAを含む受精卵から新生児を誕生させることに成功したと伝えた。同誌はその方法を「3人親法」と表現したが、これまでも「ミトコンドリア置換治療」「ミトコンドリア提供」「卵子核移植」などの名で呼ばれ、かつ多くの問題を指摘され続けてきた技術だ。
目的は遺伝性疾患対策
依頼したヨルダン人夫婦は4回の流産後、2人の子どもをもうけたが、1人を6歳で、もう1人を8カ月で亡くしている。どちらも「リー症候群」という深刻な神経疾患を抱えていた。母親のミトコンドリアにあるDNAの変異が原因とわかり、夫婦はザンらに助けを求めた。
ミトコンドリアは細胞の核の外側に存在する器官で、細胞にエネルギーをもたらす役割などがある。細胞核と別に、ミトコンドリアDNAにも遺伝子があり、それらは卵子を通じて母親から子にそのまま遺伝する。そこで、母親のミトコンドリア病が子どもに遺伝するのを回避するために、ドナー(提供者)女性のミトコンドリアを使う方法が考え出された。なお、父親のミトコンドリアは遺伝しない。
2015年2月、英国は世界で初めて「ミトコンドリア提供」を認める法律改定を決めた。認められたのは、母親の卵子とドナーの卵子それぞれを父親の精子で受精させ、できた両方の受精卵から核を取り除き、核のないドナーの受精卵に母親の核を移植する方法だ。