◎一方、これから「金融拠点」としての地位を失っていくであろう地域のうち、まずはシンガポールが先手を打つ形で「アジアにおける人財教育センター」というコンセプトを打ち出し始めた。つまり「これからはカネではなくヒトだ」というわけである。もっともそこで念頭におかれているのは人財といっても自国民(シンガポール人)ではなく、日本人など外国人たちである。我が国でいう「グローバル人財」の教育・供給拠点としての地位を着々と固めつつある。
◎香港は今のところ「落日」を感じさせない。逆にいえばその分だけなりふり構わなくなっているといっても過言ではない。特に毎年1月に行っている「アジア金融フォーラム」では人民元の国際化を大々的にアピールし、「人民元といえば香港」と懸命に宣伝し始めている。またインドやオーストラリアなどから大規模な代表団を招聘し、「金融拠点・香港」の体面を保とうとしている。その様子は傍目で見ていて、正直なところ涙ぐましいと言わざるを得ない。
なぜ米国はここへきてTPPやTAPに前のめりになったのか
こうしたアジアの金融拠点を巡る争奪戦が進む一方で、2008年から国際社会で生じている一連の展開の中で、気になって仕方がないことが一つある。それは米国が環太平洋経済連携協定(TPP)に、ここに来て急に前のめりとなったということだ。そしてこの文脈では、しばしば米中関係が引き合いに出されて語られる場合が多い。
といっても私が言いたいのは、我が国でしばしば語られるような「TPPは我が国と中国を分断するために米国が持ち出したものだ」といった安直な議論ではない。私が気になって仕方がない点は、全く別なところにある。
確かに米国がTPPの議論をめぐって中国を念頭に置いていることは明らかだ。だが、その一方で欧州との間でもTAP(環大西洋経済連携協定)を結ぶべく交渉を大車輪で始めてもいるのであって、何か様子が変なのである。アジアと欧州で米国は一体何をしようとしているのか。
紙幅の都合上、詳細な点は別の機会に譲るが、これらの通商協定のネットワークによって米国が戦略的に追求しようとしているのは、「知的財産権死守による中国封じ込め」なのである(この点について知りたい方は渡辺惣樹『TPP 知財戦争の始まり』をご覧頂きたい)。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら