この逆転現象の主因は、2008年の経済危機を受けた景気後退や成長鈍化である。欧米では1993〜2005年、GDPの伸びに対する世帯収入の増加の寄与度が18%だったが、2005〜2014年には4%へと大幅に鈍化した。
しかし、危機後の成長鈍化だけが問題なのではない。投資低迷や労働力の減退、生産性の急低下も収入減をもたらす要因となった。少子高齢化や技術革新、単純労働のグローバル化、非正規雇用の増加も、世帯間の所得分配を不均衡にした。こうした傾向は反転するどころか、今後、部分的には強まりそうだ。
マッキンゼーの報告は、2005〜2014年の全体的な成長率がプラスだったにもかかわらず、大半の世帯の控除前所得が増えていない実態を浮き彫りにした。特に米国では、中・低所得世帯が賃金を稼ぐ能力が損なわれた結果、可処分所得は伸び悩んだ。
一方でスウェーデンは逆境をはね返した。2005〜2014年の成長減速に対応して同国政府は労働者や労組と組んで労働時間短縮と雇用確保に努めた。こうした措置により、控除前所得が増えなかった世帯は全体の20%にとどまった。そして可処分所得は、ほぼすべての世帯で増えた。
米国政府も2009年実施の景気刺激策などを通じて家計の支援に努め、一部では可処分所得の引き上げを実現した。しかし、2005年から2013年末にかけて、控除前所得が全米の81%の世帯で減った事実に変わりはない。労働者の所得を回復させるために米国が講じた諸施策の効力は、スウェーデンに比べて、はるかに小さかったわけだ。
ポイントは絶対多数の貧困層
こうした失敗の結果は長い間尾をひく。実質所得の低迷や減少は消費やGDPの伸びに響くだけでなく、社会・政治的な不満を増大させ、既存の経済システムに対する市民の信頼感をも損なう。
米英仏で行われたMGIの調査によると、所得が増えず改善も望めない人々は、貿易や移民について否定的な見方をする傾向がある。英国での国民投票で欧州連合(EU)離脱派が勝利し、米国で2大政党が共に通商協定に反対しているのは、その明確な兆候だ。
米国など先進国での格差をめぐる議論では、少数の富裕層への対処に焦点が合わせられている。しかし、大半の世帯の所得が低迷や減少を続け、若い世代が親よりも貧しくなっている中では、大半の世帯の賃金をどうやって引き上げるかに重点を置いた対策を講じることこそが急務なのだ。
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