引き締めをしても規制緩和しても不動産価格は上昇
ここで問題なのは、不動産価格上昇を抑えるために中国政府が金融引き締め等の不動産抑制策を採ると、デベロッパーも供給を絞るので、旺盛な実需に対し供給不足となって良質な物件は価格が上昇してしまう。規制を緩めると実需に投機資金が加わり価格上昇圧力が強まり、実需家は買えなくなり、住宅バブルとなる。また、都心部の特に有名幼稚園、小中学校が集中する地域の不動産は人気が高いため、規制を強めれば強めるほど、ますます価格が上昇するという悪循環に陥っている。
もちろん中国政府も対策を考えている。中国政府は中低所得者向けに、2011
年から2015年までの5年間で3,600万戸もの日本の公団住宅に相当する保障性住宅の建築を進めている。
日本でも1970年代に金の卵として地方から都市圏に出てきた若い世代向け公団住宅がどんどん建設され供給されたのと同じような状況が出現している。しかし利用条件が厳しく、立地も郊外が多く、クオリティーも低いために低所得層にもあまり人気がない。私も何回も見学しているが、道を挟んだ反対側の民間デベロッパー物件の方が人気の高いケースがほとんどであった。
この保障性住宅の住人によると「10年後にどちらの不動産の価格上昇率が高いか考えたら、やはり高品質で、緑化率も高い民間デベロッパー物件が最終的にはお得だよ。自分は資金がないから買えない。だが金があれば民間デベロッパー開発物件を買うよと」言っていた。一方で、利権を利用して保障性住宅を不正取得し、低所得者に貸しているケースも多数報告されている。
重要なのは、不動産価格上昇の速度
中国政府が注視している経済指標の一つが不動産価格の動向であり、庶民もまたもっとも関心を寄せている事項である。庶民の不満が高まれば、共産党批判につながってしまう。不動産価格は上がりすぎても、下がってもいけない。価格上昇のピッチが重要なのである。家が売れないと、セメント、鉄、非鉄、家具、家電製品等あらゆる物が売れないし、国有企業の過剰生産も解消されない。
マネーの蛇口を緩めると不動産価格は上昇し、庶民の不満は高まり、サービス業も賃料が高すぎて採算が合わないため発展が遅れる。中国政府の陥っているジレンマは解決が非常に難しい。今後も固定資産投資と金融引き締めをバランスさせていくために、金融という蛇口を絞めたり緩めたりを繰り返す慎重な経済運営が必要となってくる。
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