通販会社がやっている「買わせる」ための工夫 なぜ、埼玉や茨城の会社は不利なのか?

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結果として「小豆島で3代続くオリーブ農家から届くオリーブなら、本物だろう」と思うからこそ、商品を購入する意欲が喚起されるわけです。

ポイントとなるのは「商品を生産している土地に、みんなが知っている風景が伴っているかどうか」です。

岩手県釜石の三陸地域に、水産加工業の小野食品(三陸おのや)という会社があります。この会社が手がける通販も、地方の風景を活用して成功している典型例です。

三陸にはリアス式海岸が続き、親潮と黒潮がぶつかる世界三大漁場のひとつである。これも教科書にも載っている常識です。

その常識があるので、「三陸産の魚を、地場の真面目な企業が加工して届けてくれる。きっと美味しいに違いない」というイメージがわきやすいのです。

以上を踏まえると、必然的に通販は、地方の中小企業に有利なビジネスであるといえます。実際、通販を購入した経験のある読者には、「そういえば私が買ったのも、地方の商品だった」などと思う人が多いはずです。

東京に住む人は、都内の小売店で売られている商品を、あえて通販で購入したいとは思いません。けれども、地方の耳慣れない会社から、「特別な品物をお届けします。ちょっとお高いですけれども、試してみませんか?」というアプローチを受ければ、心が動きます。

ただし、どの地方でも成功するわけではありません。たとえば、埼玉や茨城の会社が地方の優位性を生かした通販商品を売るのは非常に困難です。その土地に、みんなが知っている風景が伴っていないからです。

通販で売っているのは「敵と戦うための武器」!?

通販会社は、ブランドイメージを形作るためのストーリー戦略を持っています。要するに、購入に至るまでのストーリーのことです。そのストーリーには、必ず敵が登場します。具体例をもとにお話しましょう。

たとえば美カンヌ化粧品は「肌のために浸透させない」という明確なコンセプトを持っています。

これまでの消費者は、化粧品は肌に浸透するものであり、むしろ浸透しなければダメだと思ってきました。それに真っ向からあらがうように「私たちの商品は浸透する化粧品ではない」と言い切っているのです。美カンヌ化粧品が「浸透する化粧品」を対立項として設定しているのは明らかです。

山田養蜂場の場合、敵は現代社会です。現代の産業社会に対して異を唱えるスタンスでメッセージを発信しています。

そのメッセージを受け取った顧客は「山田養蜂場というのは、考えがしっかりしているから、きちんと配慮した生産をしているのだろうし、届けられる商品も安心できるな」と思います。

化粧品のオルビスは、「肌に必要なのは油分ではなく水分である」とうたい、乳液は販売していません。これにより、油分による保湿を基本とする他のブランドすべてからの差別化を図っています。

「にんにく卵黄」で有名なやずやの敵はサプリメントです。では、にんにく卵黄は何なのかというと、サプリメントではなく健康食品であると位置付けています。

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