内定辞退やオワハラにあたる例として、いくつかの「都市伝説」が昔から語られている。
「人事担当者に面会し内意辞退を申し出たところ、頭からコーヒー(「カツ丼」というパターンもある)をぶっかけられ、クリーニング代を渡された」という話はよく耳にしたことがあるだろう。「この場で他の内定先企業に電話して、内定を辞退しろ」と言われた学生が、内定先企業に電話をするふりをして、別の宛先に電話をしていたとか、さらには事前に内定先の他社に「内定辞退の連絡を入れさせられるかもしれませんが、本心ではありません。辞退するつもりはありません」と伝えておいた……。
現代のように本人がネットによる情報発信を行うのではなく、すべてが人づての噂話として流通しており、発信源が誰なのか誰も把握せずに広まっていった。しかし、バブル期の内定者拘束の逸話は都市伝説ではなく、実際にあった話ばかりだ。当時、就職情報会社で勤務していた私が、モニター学生と採用担当者の両方から直接話を聞いた例を紹介しよう。
実際にあった内定者拘束の数々
他社への就職活動をさせないために、社員寮に軟禁(1日中マンガの本を読ませていた)したり、ボウリング場を借り切って1日中ずっとボウリングをさせていたりする内定拘束の例があった。さらには内定者旅行と称してクルーズ船に乗って出かけるケースもあった。クルーズ船というのがミソで、海の上にいってしまっては抜け出すことはできない。
テレホンカードの没収というのもあった。当時、携帯電話やメールなどはまだなく、企業への連絡はもっぱら公衆電話からだったため、就活生にとってテレホンカードは必需品だった。そこで企業の拘束時に最初に行われたことは、内定者からテレホンカードを預かる(帰りには返却される)ことだった。小銭でも公衆電話は掛けられるのだが、都外に連れ出されているので10円や20円ではほとんど通話にならない。あらゆる手で学生に電話連絡をさせないようにしていたのだ。
バブル期は超売り手市場で、こうした笑い話のような内定拘束が横行していた。しかし、今でも企業側はいろんな手を講じて学生の「確保」に躍起になっている。
今年、経団連の指針が改定され、大手企業の選考開始が8月から6月へと2カ月早まった。中小企業などの間には選考時期を大手企業の選考後に戻した企業も少なくないし、先行して内定を出した企業にしても、大手企業の内定出しとの間隔は短くなった。そうした日程の変更でオワハラは一気に減少するのではないかと言われていた。さらに昨年、オワハラを受けた学生が心証を悪くし、その会社の内定辞退を決断するなど、逆効果になっているとの報道もオワハラ沈静化予想の根拠になっていた。
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