若き「独立時計師」のクレイジーすぎる挑戦 1800万円の腕時計も通過点に過ぎない

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独立時計師協会には、正会員と準会員がある。まず準会員になるためには、2名の正会員の推薦を受けて、見本市でオリジナルの時計を発表しなければならない。その後2年続けて新作を発表し、総会で出席者全員の賛成を得られると、正会員に昇格できる。

バーゼルワールドは、スイスのバーゼルで毎年開催される世界最大の時計の見本市で、展示すれば正会員への最初の一歩となる。

フィリップ氏の誘いは、独立時計師になるためのスタートラインに立たないか? という意味で、思いもよらぬとんとん拍子の展開に、菊野は一瞬、返事を躊躇った。

「こんなチャンスは二度と来ない」

自分はまだまだレベルが低い。ここでイエスと言ったら、今後自分が独立時計師として生きていくことを世界に宣言することになる。果たして俺にできるのか……。

しかし、すぐに迷いを振り切った。

「こんなチャンスは二度と来ない、ここで引いてはダメだと思いました。自分のレベルが不足しているのは自覚していたし、公の場に出たら批判があるかもしれない。でも、不安な気持ちよりも、やっぱり時計を作るのは面白い、独立時計として勝負をしたいという気持ちが勝りました」

ぜひお願いします! と答えた菊野とフィリップ氏は、がっちりと握手を交わした。

2011年春、初めて参加したバーゼルワールドのことを、菊野はあまり覚えていない。

「緊張して舞い上がっていたんです。雑誌で見たことのある時計師たちがいて、すごいところに来てしまったなと。皆さん、温かく迎え入れてくれました。僕は英語ができないのでコミュニケーションを取るのは難しかったけど、時計のことはなんとなく伝わるんですよね。僕の時計を見て、面白い時計だねと言ってもらえて嬉しかったです」

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