結婚とは「一瞬が永遠に続く」という妄想だ 上野千鶴子さんが語る「結婚と家族」

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その後、「孤独死」と言われたくなくて、『男おひとりさま道』という本を書きました。そこでは、「孤独死」あらため「在宅ひとり死」という言葉を思いつきました。

首都圏のシングル率(30代)は3割台。この人たちがこれから結婚する確率は低い。となると当然、これからは「在宅ひとり死」が増えるでしょう。私は介護関係の講演会では、こういう質問をよくするんです。「みなさんは、死ぬときに、誰かに手を握っていてほしいですか」「死の床では、子や孫に取り囲んでほしいですか」と。

そこで、手をあげるのは、だいたい、おっさん。それとは対照的に、女の人は、覚悟が決まってる人が多い。ひとりで死ぬことを不幸と思わなきゃ、そんなもんだ、と。

人生の勝負は、短期では決まらない

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がんをはじめ、今の時代は、だいたい死期を予測できるようになっている。なので、もしみなさんも、うちの親もぼちぼちかな、と思ったら、日頃からこう伝えておいたほうがいい。「あなたの子どもでよかった。一緒に過ごせてよかった」って。臨終間際に「お母さんっ!」と、取りすがるよりもね。

だから、「ありがとう」「さようなら」を何度でも言ったらいいと思う。さようならを言って、そのあとでまた会ったら? 「また会えてよかったね」と、そして「さようなら」って心を込めて言えばいいじゃない。

私もこの年齢になると、追悼文を書く機会も増えました。だけど、なんぼいいこといったって、死人には届かない。なんで生きてるときに、言ってあげなかったんだろう、と。だから、この頃は、人に合うたびに、「あなたのこんなところが好き」「あの時はとても助かった」と伝えて、相手のことを褒めるようにしているの。だから「上野に褒められると、死期が近い」と、思われるかもね(笑)。

人生の勝負は、短期では決まりません。自分だけ抜け駆けして出世したって、仕事を優先し過ぎたツケが子どもに来るかもしれないし、会社だってあなたの貢献に報いてくれるとは限らない。

年を取れば、どんな強者でも弱者になる。どんなに力のあった人もいずれ老いさらばえ、ボケて人の世話になりながら死んでいく。いま68歳の私は、全盛期に比べたら体力も気力も衰えてきているし、完全にくだり坂。ピークは過ぎたと実感しています。ピークへ行くまでが、上り坂。それからの下り坂が長いんです。

ピークっていうのは、過ぎたあとになって気づくもの。過ぎてしまったら「あら、あれが私のピークなの」「なんだ、あの程度だったのね」って。

もし強者のままで死にたかったら、早死にするしかない。そうもいかないから、どうやって自分の人生を終わらせていくかが、関心事になってくる。

私が教えていた東大生は、みんな、親や教師に褒められたくて、がんばってきた子たち。でもね、親や教師と、あんたとだったら、どっちが先に死ぬの? 彼らの死後は、誰があんたを褒めるの、って。

最後の最後に自分の人生を認めるのは、自分しかいない。

死ぬ間際に「ああ、面白かった、楽しかった、生きてきてよかった」と言えるような人生を送りたいですね。

上野 千鶴子 社会学博士。東京大学名誉教授

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うえの ちづこ / Chizuko Ueno

一九四八年富山県生まれ。京都大学大学院修了。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。女性学・ジェンダー研究のパイオニアとして教育と研究に従事。著書に『家父長制と資本制』 『おひとりさまの老後』『在宅ひとり死のすすめ』などがある。

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