元トヨタマンが証言する「人づくりの極意」 トヨタが「デキの悪い部下」を見捨てないワケ
「部下をぐいぐい引っ張っていくことは大事。でも、その前に部下に仕事の『おいしさ』を理解してもらわなければいけない。『こういうカイゼンをやると、作業が楽になる。その結果、皆さんの周囲が気持ちの良い環境になる。だから、やってみよう』。そんな風に言えば、部下もやる気になる。ただ、単に『飲みに行くぞ』『仕事やるぞ』ではなく、部下の目線に立って、おいしさを伝えたほうがうまくいく」
現場の管理監督者はいろいろな問題を抱えていて、それを真っ先に解決したいという思いがあります。堤自身も「とにかく、まずやろう」というような言葉を発することが多く、「仕事のおいしさ」までは伝えきれていない場面が多々ありました。そんな中、田中課長の言葉を聞いて、堤は深く反省したのだそうです。
田中課長自身は「部下においしさを伝える」やり方を実践していた人でした。穏和な性格で、「お前はおかしい」と頭ごなしに叱ることがない。日ごろから部下の性格や行動をよく見て理解し、「こうしたほうがうまくいく」とアドバイスしていました。
「そんな田中課長だからこそ、やろうやろうという気持ちばかり強く、部下の感じていることをつかみ切れていない私の姿に気づいたのだと思います。そして、課長は何かを教えるときに、同じ言葉ややり方を使うことがありませんでした。常に、それぞれの職場の状況に応じて、それぞれの作業者のレベルに応じてやり方を変えていたのです。私への伝え方も、私が最も納得しやすいタイミングや言葉を選んだのだと思います」
とにかく部下の思いに耳を傾ける
このように、状況や相手によってやり方を変えることは重要です。中でも重要なのは、部下のタイプに応じていかに対応するかです。
まず最初は、扱いづらい部下ですが、どう対応するといいでしょうか。
トヨタでは、問題が起きたら本人よりもその上司が怒られます。「いったい、これまでにどんな教育をしてきたんだ」と上司が言われるのです。チームワークの結果としての組織全体での成果を重視するため、どんな部下であっても上司はうまくマネジメントしていかなくてはいけません。
元トヨタマンの中根光男は、工場内でも評判の問題社員を抱えたことがありました。その部下は、仕事ができる、できないといったことではなく、上の人間に逆らって言うことを聞かないという問題がありました。
職場の活動に文句を言ってきたり、会社の命令に逆らったり……。会社が進もうとする方向にあらがおうとする社員で、これまでの上司の中には精神的に参ってしまった人もいたといいます。しかし、中根はこれまでの上司とは違いました。
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