元トヨタマンが証言する「人づくりの極意」 トヨタが「デキの悪い部下」を見捨てないワケ
「最初のころ、中野自身は異動に反発していました。『なぜ、俺を移動させるのか。この部署では俺は使いものにはならないのか』と反発してきました。でも、実際はその逆で、彼のように能力を持っている人間は、どんどんテーマを与え、いろんなところで実績をつくり、まわりに認めさせたほうがいいんです」
そして、中野は異動先で仕事の面白さに目覚め始めました。与えられたテーマにも応え、どんどん実績を出していくようになったのです。次第に、彼を見る上司やまわりの人間の目も変わっていきました。
数年後、彼は市場への新車投入に大きく貢献し、結果的には数十人を束ねる工長にまで出世しました。中野は、丹野という上司との出会いによってその力を見いだされて能力を発揮し、社内でも高い評価を得ることに。本人にとっても会社にとっても、幸福な結末になったのです。
デキの悪い部下にも「デキる仕事」がある
それでは、人間的には問題はないものの、仕事のうえでは力を発揮できないという部下の場合にはどうでしょうか。
ある日、元トヨタマンの近藤刀一の下に、ある一人の「仕事のデキの悪い部下」が配属されました。当時、近藤の部署は創意くふう提案制度等に取り組んでいましたが、チームとして成果をあげるためにはすべてのメンバーに活躍してもらうことが必要だったのです。そこで近藤は彼もチームの一員であることを部下たちにわからせるために、ある行動をとります。
「私はいつも『仕事ができない』と言われていた作業者に、工場内の休憩所の掃除をさせていたんです。仕事が終わったあとに、灰皿を片付け、湯のみをきれいに洗うといったことをやってもらっていました」
そしてあるとき、みんなの前で近藤は言いました。
「『休憩所や灰皿がいつもきれいなのは、○○○くんが掃除をしてくれているからなんだ』と。すると、職場のみんなも『あー、そうだったんだ。ありがとう』と彼に感謝します。彼もみんなに感謝されてうれしそうでした。その顔はいまでも覚えています」
「職場は一つのチームなんです。彼のように、仕事があまりできなくても、何とかやりようはあります。仕事以外のことでもいいから、チームの一員として頑張っていれば、その姿を見て、みんなのモチベーションも上がり、雰囲気もよくなるんです」
別のトレーナーは、現場作業では手際が悪かった部下を、QCサークル(職場内の身近な問題をとりあげ、自主的に改善をはかる小グループの活動)発表のためのイラストを描かせる役に抜擢し、彼の貢献で高い成績をあげることができたといいます。このような例は多くあります。つまり、部下にどのような持ち味があり、それをどのような場で生かすことができるのかを考えるのが、上司の仕事なのです。
トヨタでは、「どんな人でもチームの一員」という考えがあります。チームとして、部下をみていくとき、できない部下をどう使うかで上司の力量が決まるのです。
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