「シン・ゴジラ」で戦う自衛隊はリアルなのか 白熱の戦いに登場する兵器を分析してみた

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自衛隊、特に陸自は通信を長年軽視してきたために指揮通信網が極めて脆弱だ。更新スピードが遅く、3世代の無線機が同居し、充足率が低い。しかもそもそも自衛隊に割り当てられている周波数帯が軍用無線に合っていない。

これを筆者は長年指摘してきたが、東日本大震災でこの問題が明らかになった。無線機が足りず混信が多く、通じないことが多かった。その後、陸自は新型無線機の導入ペースは早めたが、周波数帯の問題は放置されており、新型の無線機も通じないと現場で非常に評判が悪い。あれだけの「戦訓」があったのに信じられない。これまた悪しきことなかれの官僚主義だ。しかもネットワーク化も遅れており、米軍との共同作戦に大きく支障がでるだろう。米軍がこの件を大きく問題にしないのは、日本の本土戦はないと考えているからだろう。

無人機を投入する必要はあるのか

その後の日米合同総攻撃では多くの米軍の無人機が投入される。しかし、あえて無人機を投入する必要があっただろうか。ゴジラから放たれる光線は直進しかしない。地球は丸いので、ゴジラの視界外から別の兵器で十分に攻撃できるだろう。無人機であれば撃墜されても人的被害は出ないが、無人機自体が安いものではない。また当然ながら無人機に搭載されている対戦車ミサイルを発射する前に撃墜されてしまえば攻撃の効果はない。

劇中でも米海軍の軍艦が巡航ミサイルを発射していた。この巡航ミサイルの数を増やすなり、榴弾砲や先述の国産対艦ミサイルでゴジラの視界外から攻撃するほうが、損耗も少ない。さらに榴弾砲など砲弾は放物線を描いて音速以上で上部から攻撃することになるので、亜音速の巡航ミサイルや対戦車ミサイルよりも命中が期待できるだろう。

だが視覚的な効果と観客に対するサプライズを考えれば、武装無人機の大編隊は大きなインパクトがある。演出としては大正解だ。

あれこれ書いてきたが、映画に過剰なリアリズムを追求するべきではない。重要なのはシナリオとのバランスだ。庵野総監督は、いくつかの局面であえてリアリズムよりも映画の演出効果を優先したのだろう。「現実ではありえないシーンが多い」と、この映画を批判的にとらえるのは無粋である。エンターテインメント作品は観客がドキドキハラハラし、泣いて笑ってナンボである。観客が満足感をもって映画館を去れれば、それでいいのだ。少なくとも2回鑑賞した筆者は、2回とも大満足して劇場を後にした。
 

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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