「シン・ゴジラ」で戦う自衛隊はリアルなのか

白熱の戦いに登場する兵器を分析してみた

水平から小さな頭部を狙うのではなく、俯角をかけて大きな腹部を狙ったほうが周辺への被害を小さく抑えることができるのだが・・・ ©2016 TOHO CO.,LTD.

多摩川沿いの防衛線において、日本政府が副次被害を非常に気にかけているシーンが印象的だ。これは当然だろう。

だが不思議なことに当初の攻撃ヘリの機関砲による攻撃ではゴジラの頭部をぼぼ水平から狙っていた。頭部は小さく、また体の上部にあるので、外したり、跳弾する可能性が高くなる。機関砲弾の流れ弾は数キロも飛ぶ。しかも弾頭は爆発するので極めて危険だ。本来ならば俯角をかけて腹部を狙うべきだ。それをやらなかったのは絵になりにくいからだろう。

登場した攻撃ヘリのAH-64Dアパッチは陸自には13機しかなく、稼働しているのはせいぜい、5~6機。つまり本編に登場したくらいの機数が、陸自が投入できる最大機数であり、その点では大変リアルである。

自衛隊は精密誘導兵器導入が遅れている

ここで自衛隊の精密誘導兵器導入が遅れている点を指摘しておきたい。本編においてF-2戦闘機は誘導弾「JDAM」を使用した。この誘導弾はGPS/INS(慣性誘導)を採用しているが、自衛隊が採用しているタイプは本来、レーザー光線による終末誘導が可能である。通常の誘導は家に命中する程度の精度、レーザー誘導ならば家のうちの1つの窓を狙える精度である。ゴジラのサイズであれば通常の誘導でもいいのだが、相手は移動する目標であるから、レーザー誘導が望ましい。

ところが、自衛隊にはその終末誘導をする部隊がない。通常のこの種の部隊は航空機に熟知している空軍が持つべきだが、空自はこの種の部隊を保有していない。NATO諸国ではチェコやポーランドのような旧東欧諸国やトルコですら専門部隊を有しており、米軍との共同作戦のためにカナダにある演習場で共同訓練を重ね、アフガニスタンでの共同作戦も行っている。だが自衛隊には専門部隊もないため、当然ながら米軍との共同訓練も行っていない(陸自が近く編成する水陸両方機動団にはそのような部隊を編成することを決めているため、もしかするとゴジラ出現に間に合うかもしれない)。

また99式榴弾砲にしても精密誘導弾は存在しない。だが先進国はもちろん、中国ですら榴弾砲、そして迫撃砲の精密誘導砲弾を実用化している。これらの砲弾を誘導するためには前方観測部隊なども含めてのネットワーク化が必要だがこの分野でも陸自は大きく遅れている。未だに大多数の部隊は紙の地図と音声電話で射撃統制を行っている。

また、先進国だけではなくトルコやUAEなどを含めた諸外国では攻撃ヘリや無人機用の武器として通常の対戦車ミサイルよりも軽量な無誘導の70ミリクラスのロケット弾の弾頭に誘導装置を装着した誘導ロケット弾や小型のミサイルを開発・導入している。人口密集地ではこのようなより威力が低く、副次被害を防げる兵器(小型軽量な分、搭載数は増える)は極めて有用だ。だが、これまた自衛隊では導入していない。

自衛隊は国産兵器を導入する理由として「わが国固有の環境に合致したものが外国にない」ことを理由とする。だが現状を見る限り、自衛隊、特に陸自が「わが国固有の環境」に配慮した装備体系を持っているとは言いがたい。

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