「シン・ゴジラ」で戦う自衛隊はリアルなのか 白熱の戦いに登場する兵器を分析してみた
この攻防戦における最大の華は戦車部隊の射撃だ。
劇中では最新式の10式戦車と16式機動戦闘車が大量に投入されている。16式機動戦闘車は平成28年度予算で初めて36輌が要求されていて、数年後にはこれらが戦力化されるだろう。
だがより攻撃力を最大化するなら105ミリ砲を搭載した16式機動戦闘車よりも、1990年に採用され、旧式化しつつある90式戦車を使用するべきだった。主砲が120ミリで、より破壊力が大きいからだ。
なお10式戦車も120ミリ砲を搭載しているが、この弾薬は90式と共用ではない。90式用の弾薬は10式で使用できるが、10式用の弾薬は強力過ぎて90式の主砲では射撃できない。
陸自には事実上の装輪戦車である機動戦闘車を含めれば現在、74式、90式、10式、機動戦闘車と4種類の「戦車」が存在し、弾の互換性はもちろん、訓練や兵站も4重となり効率が悪い。また戦時における部隊の再編も問題だ。たとえば10式のクルーは戦車が撃破されても、90式には搭乗できない。相手が怪獣だからそのような陸自の弱点は露呈していないだけだ。
90式を関東まで運ぶのは難しい
登場する「戦車」が10式と機動戦闘車になったのは最新の「戦車」を登場させたいという庵野総監督の思いだろうか。ただ陸自には戦車を運搬するトレーラーが不足していること(戦車連隊に数輌)、道路が避難民であふれていることから、主として北海道に配備されている90式を関東まで展開できないと考えた可能性もある。その点については、「さもありなん」であり、きわめてリアルなように感じた。
自衛隊の攻撃は失敗し、その後の米軍による攻撃も失敗。むしろゴジラの進化をうながしただけだった。その後、陸自は「新型無人機」でゴジラの偵察を試みるも、これも撃墜される。
この無人機は映像から見る限り、回転翼型だと思われる。であれば、富士重工業が開発した「無人偵察機システム」だろう。だが、このシステムおよび、その前身である特科(砲兵)観測用のFFOSは東日本大震災では一度も使用されなかった。防衛省のホームページには開発の目的として「大規模災害やNBC(核、化学、生物兵器)環境下における偵察」と書かれ、開発は大成功と自画自賛をしていたにもかかわらずだ。
防衛省は国会答弁で、墜落による二次災害の発生を恐れて使用しなかったと述べている。つまりは信頼性が低かったから使わなかったということだ。同じ答弁で導入から1年しか経っていないため習熟がなされていなかったとも説明している。ところが、先の熊本の震災でも使用されなかったのはなぜだろうか。
つまり、無人偵察機システムを使うことは現状では難しい。ただ劇中では単に「新型無人機」と呼称しているので、もしかすると別のまったく新しい機体を想定しているのかもしれない。
通信についても触れておく。劇中では作戦活動での通信の混乱がなかったが、実際の自衛隊がこのような大規模な作戦を行った場合、無線機の不通、不足で指揮通信が大きく混乱する可能性が高い。
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