国債の大規模購入と財政政策の危険な関係 米国でもリスクを警告する論文が話題に(日銀ウォッチャー)

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インフレの持続には、賃金の上昇を持続させることが必要である。1991年から2011年までの各国の20年間の平均名目賃金上昇率と平均物価上昇率を比較してみよう(以下、前者が賃金、後者が物価)。アメリカはプラス3.4%(プラス2.5%)、イギリスはプラス4.0%(プラス2.4%)、ドイツは+2.4%(+1.8%)、そして日本は+0%(0.2%)となっている。

幸いなことに日本では一時金の支給を増加させる大企業が増えてきている。しかし、それを持続させるには、企業収益も改善させていかなければならない。日本企業が無理に賃金を増やし続ける可能性は現実には低いが、仮にそうなった場合、若年層の失業者が急増していく恐れがある。

最近の25歳未満の失業率を見てみると、おおよそ、ユーロ圏は24%、イギリスは21%、アメリカは17%、日本は7%である。米国の企業は、リセッションになるとレイオフを積極的に行う。欧州の企業は米国の企業ほどレイオフを行わないが、物価が上昇すると労働組合の強い要望を受け入れて賃金を引き上げる傾向がある。とはいえ、労働分配率を天井知らずで上げるわけにはいかないから、欧州の企業は若年層の新規採用を絞っている。その結果、欧州では若年層の失業率が非常に高くなっている。

緩やかなデフレは低成長、賃金引下げの結果

一方、日本では、多くの企業が賃金を少しずつ引き下げる代わりに、雇用を維持してきた。このため、家計の消費の力は徐々に浸食され、企業は値上げを行えない状況が長く続いてきたため、緩やかなデフレが続いてきた。だが、日本の失業率は欧米よりも大幅に低く、ホームレスも少なく、若年層の凶悪犯罪、暴動も比較の上では少ない。

筆者は日本が今のデフレのままでいいと言っているのでは全くないが、国民の幸福に資するようなデフレ脱却を実現するには、単に金融政策でインフレ期待を持ち上げるのではなく、成長戦略で経済をバランスのとれた姿に持っていく必要があると考えている。経済の実力が高まった結果として、インフレ率が適度に上昇するという姿が望ましい。
 

加藤 出 東短リサーチ社長

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かとう いずる / Izuru Kato

1988年、横浜国立大学経済学部卒業、東京短資入社。金融先物、CD、CP、コールなど短期市場のブローカーとエコノミストを2001年まで兼務。02年2月よりチーフエコノミスト。13年2月より東短リサーチ代表取締役社長。短期金融市場の現場から各国の金融政策を分析。『日銀は死んだのか?』『バーナンキのFRB』『日銀、「出口」なし! 異次元緩和の次に来る危機』  など著作多数

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