需要側の"構造問題"の解決こそが課題だ 日本の成長可能性を悲観しすぎていないか

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経済の生産力の伸びは資本ストックや労働投入量、生産技術といった供給側の要因で決まる。だが、現実の需要が弱くて投資の収益が期待できないと投資が手控えられて潜在GDPは伸びが低いものになってしまう。また、供給力が余っている中では生産の効率を改善して生産量を増やそうというインセンティブも働きにくい。企業が必要以上の労働者を雇用する雇用保蔵もおこるので、見かけ上、技術進歩率が低く見えてしまうということも起きる。

この場合は、技術革新が乏しいために供給力を伸ばすことが難しくなっているわけではない。需要さえ十分にあればもっと高い経済成長が可能になるはずだ。

必要なのは需要側の構造問題の解決

もちろん労働力人口の減少や高齢化による家計貯蓄率の低下、経済の成熟化を考えると、日本経済が2%を超えるような高い実質経済成長率を長期に維持することは無理だが、それでも今後も1%弱程度の経済成長を続けることは十分可能だと見られる。

供給力の伸び率を高める政策にいきなり取り組んでも、経済を成長経路上に維持するために強力な財政・金融政策を続けなくてはならないのでは、高い「潜在成長力」は宝の持ち腐れだ。

日本経済にまず必要な成長戦略とは、多くの論者が議論しているような生産性を高めて生産力の伸びを高めるという供給側の構造改革ではなくて、大幅な財政赤字や超金融緩和がなくても経済が成長経路を維持することができるようにするという需要側の構造問題の解決である。

例えば社会保障制度を充実させれば、寝たきりで介護が必要な場合に備えて多額の貯蓄をするという必要性を低下させる効果があるだろう。所得税や相続税の累進性を回復させて所得格差を縮小することも、消費性向の低い層から消費性向の高い層へ所得が移転するので、より多くの消費が行われるようになるはずだ。需要を増やすためのはずの超低金利は、家計の利子所得を低下させて逆に消費を抑制している可能性があるなど、需要側の構造問題として検討すべき問題は多数ある。

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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