花王、中国攻略の切り札は「紙おむつ」 中間所得層の獲得へ一手

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ライバルの元提携先と組む

シェア30%超でトップの米P&G、20%弱で2位群につけるユニ・チャームに追いつくために、入念な準備をした。数千件に及ぶ現地家庭の訪問・調査を行い、新製品には「通気性」を向上させる新技術を採用した。水分の吸収用のポリマーとパルプの配置を工夫し、お尻のべたつきを軽減。「この点は高価な従来品より優れたものに仕上げている」とメリーズの企画・販売を担当する藤原正輝ブランドマネジャーは語る。それでいて、現地での原料調達や生産によって販売価格を抑えた。

販売面では、現地で日用品製造・卸を行う上海家化と業務提携した。今後は上海家化を通じて中国全土の2.5万店のベビー用品店に展開する。国内では小売りと直接取引を行う同社だが、海外では現地企業と提携することも少なくない。異例なのは上海家化が5年前までユニ・チャームが提携していた相手だということ。なりふり構わず、同社の成功をなぞる戦略だ。

ただし、「上海家化は中国内陸部での納入シェアが低く、カバーできる範囲が狭い」(業界アナリスト)との指摘もある。ユニ・チャームは上海家化との提携解消について「その段階ではなくなったから」と説明する。その後、同社は内陸部などに強みを持つ現地卸を利用してシェアを向上させており、上海家化との提携効果は未知数といえる。

今回の瞬爽透気の開発から生産、発売まで、花王は約10年を費やした。ユニ・チャームは調査から商品の発売までの期間が1~3年。花王のスピード感のなさは不安要因として残る。生産面でも初の紙おむつ工場を立ち上げたばかりの花王に対して、ユニ・チャームは13年末に中国5拠点目となる内陸江蘇省の工場が稼働する。出遅れを取り戻すのは容易でない。

今後、衣料用洗剤や生理用品でも中間層向け展開を強める。花王の澤田道隆社長は「明らかに最後発。すぐにシェアを上げられるとは思っていない」と慎重だが、勝負をかける思い切りも必要だ。

(撮影:尾形文繁)

週刊東洋経済2013年3月2日号

長瀧 菜摘 東洋経済 記者

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ながたき なつみ / Natsumi Nagataki

​1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、自動車・建設機械などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を4年半担当。アマゾン、楽天、LINE、メルカリなど国内外大手のほか、スタートアップを幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者・編集者として6年ほど参画。2023年10月から再び東洋経済オンライン編集部。

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