最貧困の「出稼ぎ女性」を襲う過酷すぎる現実 出稼ぎに行った先では何が待っているのか

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アスマレさんが暮らす集落で遊ぶ子どもたち ©Kiyori Ueno

エチオピアでも多くの移民が就労ビザを持たずに非正規移民として中東諸国に渡る。その正確な数は不明だが、正規移民の数倍もの人数のエチオピア人が人身売買により、あるいは違法な斡旋業者の手引きで密入国させられ働かされていると言われている。

中東へ渡る移民の人身売買、強制労働が国際的な問題になるなか、エチオピア政府も人身売買を減らすための対策を取り始めている。同政府は2013年には人身売買を防ぐための措置として中東への就労を目的とした渡航を一時禁止し、2015年には密航業者や人身売買業者たちに対し厳しいペナルティを科す法律を成立させた。現在、同政府は中東各国政府との間でエチオピア移民労働者を保護するための2国間労働協定を結ぶために協議を行っているところだ。

「外国に行けば今よりいいお金がもらえる」

エチオピアでは、建設現場で多くの若い女性たちが泥まみれで男性に混じってセメント袋を運ぶなどの肉体労働をしているのを見かける。その多くが農村部から出てきた女性たちで、よりよい生活を目指して外国に出稼ぎに行くことを夢見ている人も多い。

アディス・アババの建設現場で働くアステル・アバテさん(右)。いつか外国で働いて家族に送金したいと述べた ©Kiyori Ueno

アディス市内の17階建てのアパートを建設中の工事現場で働いているエチオピア南部の町アルバミンチ出身の20歳のアステル・アバテは「今はこの工事現場で働く以外に生きて行くすべはない」と話す。

父親は農家で、既に亡くなっている。アバテが学校に通ったのは小学校3年生までで、何とか読み書きはできる。1年前にアディスに出てきたというアバテは週末もなく毎日働く。1日当たりの賃金は50ブル(約250円)だ。「外国に行けばよりいいお金がもらえる。生活を変えるため、家族のために、アラブの国々でもどこでも国外に行ってメイドとして働きたい」。外国に行けば貧困から逃れ、明るい将来があると信じているのだ。

国際移住機関(IOM)エチオピア事務所のアチエン所長は次のように言う。「当然ながら、自分の国に仕事があれば誰も自分の国を去ったりはしない。エチオピアのような移民輩出国内には非常に大きな経済格差がある。中東に渡るエチオピア人移民の数はこれからも確実に増え続けるだろう」。

われわれ日本人からみると、別世界の話に感じるかもしれない。しかし、これがアフリカの現実なのである。

(本文中敬称略)

上野 きより ジャーナリスト、元国連職員

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うえの きより / Kiyori Ueno

ブルームバーグ・ニュース東京支局、信濃毎日新聞社などで記者として働いた後、国連世界食糧計画(WFP)のローマ本部、エチオピア、ネパールで働き、食糧支援に携わる。2016年から独立。慶應義塾大学卒業、米国コロンビア大学院修士課程修了。東京出身

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