「中東諸国は国内の肉体労働をかなり移民に頼っている。以前はアジアからの移民が多かったが、最近はエチオピアを代表とする“アフリカの角”地域出身者が多くなっている。特に家庭内労働においてはそうだ。」と国際移住機関(IOM)エチオピア事務所のモリーン・ アチエン所長は話す。「“アフリカの角”は人材の供給地であり、そのすぐ近くの中東には(人材が必要な)大きなマーケットがある。結果として需要と供給が合うという状況になっている」
エチオピアは過去10年、約10%の経済成長を記録するなど近年目覚ましい経済発展を遂げているが、いまだに世界の中でも最貧国の1つだ。同国の専門家は経済発展の恩恵を受けているのはほんの一握りのビジネスに携わる人々で、一般のエチオピアの人々や農村部に住む人々はほとんどその恩恵を受けていないと指摘する。また、賃金も安く、エチオピアの繊維工場労働者の賃金はエントリーレベルで毎月40ドルほどだ。
人身売買が行われている
レバノンに渡ったアスマレの例のように、中東諸国で多くのエチオピア人女性たちを待っているのは劣悪な労働環境だ。逃げられないように雇い主にパスポートを取り上げられることや、休みなく長時間働かせられることなどは頻繁に起き、さらにひどいケースでは、言葉による暴力、身体的な暴力や性的虐待を受けたりするなどの例が国際機関や人権団体により多く報告されている。
そのような劣悪な環境に絶望し、中には自ら命を絶つ女性たちさえおり、中東諸国から遺体となって戻ってきたエチオピア人女性たちの例も報告されている。命からがらエチオピアに帰っても精神に異常をきたしてしまう女性たちも多い。
この “現代の奴隷”を可能にしているのが、カファラと呼ばれる中東諸国の制度だ。カファラとは、家庭内や建設現場などで働く移民労働者を管理するシステムで、単純労働者である移民労働者たちは出稼ぎ先の国でスポンサーを持つことが義務づけられている。スポンサーは通常雇用主であることが多く、雇用主が移民たちのビザや法的地位の責任を持つ。このカファラは、スポンサーである雇用主が移民たちを虐待しても法的に問われることがほとんどなく、労働者搾取をしやすくなるとして人権団体から批判されているシステムである。
移民の問題でもう1つ大きな問題になっているのが密航業者による人身売買や強制労働である。国際労働機関(ILO)が2013年に出した報告書によると、中東においては60万人もの移民労働者たちが人身売買により強制労働の犠牲になっているとしている。
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