昭和史から問う「二大政党制は終わったのか」
いまこそ甦らせたい戦前、普通選挙時代の夢と教訓

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稚拙な政権交代を「伝統」と諦めるのではなく

また、社会民主主義的で無産政党との連携も重視した民政党に対し、政友会は地主・財界が地盤で思想も保守的だったが、30年の選挙で浜口雄幸首相の民政党に大敗して以降は、党の体質改善を真剣に検討した節がある。

貧困問題を調査して対策を立案し、労働組合法案や婦人公民権をめぐる論戦では、政府民政党よりも人権を重んずる姿勢を見せた。

そうだとすれば、近日の自民党・民主党間での政権継受の不手際を、戦前以来の伝統として諦めるわけにはいかないだろう。

民主党政権の蹉跌は、普天間問題に代表される鳩山由紀夫首相の不用意な外交転換から始まった。一方で野党転落以降の自民党はいたずらに「忠実な保守層」のみの結集に努め、市民の福祉や権利の保護には後退的な態度が目につく。われわれが先の選挙で葬ろうとしているのは、戦前よりも遥かに稚拙な二大政党制かもしれないのだ。

粟屋憲太郎『昭和の政党』(岩波現代文庫、2007年 ※底本は、『昭和の歴史 第6巻 昭和の政党』小学館より1983年刊)

川人貞史日本の政党政治 1890~1937年を引いて筒井氏が述べるように、普通選挙による競争の激化は、議員が代議士以外の職業でも自活できた名望家政党時代の余裕を失わせ、「次の選挙」に当選し続けるためには手段を選ばない風潮をもたらした。

すなわち支援者への露骨な便宜供与と、対立党派への誹謗中傷であるが、他党のビジョンを「党利党略」と罵るだけの批判は、やがて必ず自党にも跳ね返る。

粟屋憲太郎氏の古典昭和の政党にもあるように、こうして政党が単なる私的利益の追求者としか見られなくなったことが、当時は公共性の担い手としての「天皇」や「軍部」――筒井氏のいう「政党外の超越的存在」の浮上を招いた。

しかし今日、平和国家の主権者である私たちにとって、それらはもはや選びえないオプションである。対立すれど尊重しあう健康的な競合関係をめざして、政党とともに国民自身が成熟すること、それ以外に道はない。

 

【初出:2013.2.9「週刊東洋経済(海外移住&投資)」

  

(担当者通信欄)

二大政党制が思うようにならない理由を、『昭和戦前期の政党政治』から考え、『政友会と民政党』が政権交代の経験から学習した「協力の可能性」を、現代日本政治に重ねて検討する。夏の参院選前に併せて読んでおきたいおすすめの2冊です!

首尾良くいかない現実を誰かのせいにして非難の目を向けることは、精神的な負担も少なく、憂さを晴らす効果を持つゆえに、どんな場面でも陥ってしまいがちな状況なのかもしれません。矛先をころころと変えて、過去の自分の選択を常に否定する、まさに非難が自分に跳ね返るような安易さを脱し、成熟を目指したいものです!

さて、與那覇潤先生の「歴史になる一歩手前」最新記事は2013年3月4日(月)発売の「週刊東洋経済(特集は、円安の罠)」に掲載!
【あの3・11から2年、千年規模で問う復興のかたち】

溝口健二監督の『雨月物語』に描かれた幽霊から、貨幣的、共同体的な価値を考えます。東日本大震災から2年が経とうとするいま問いかける、千年規模の復興のかたち。 

 

現在の日本について、歴史から考えてみたい方は、2012年9月刊行の『「日本史」の終わり 変わる世界、変われない日本人』(池田信夫氏との共著、PHP研究所)を!

2011年刊行の話題書もぜひ!『中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史』(文藝春秋)
 
こちらの昭和史もあわせて!『帝国の残影―兵士・小津安二郎の昭和史』(NTT出版、2011年)

 

與那覇 潤 評論家

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よなは じゅん / Jun Yonaha

1979年、神奈川県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。学者時代の専門は日本近現代史。地方公立大学准教授として教鞭をとった後、双極性障害にともなう重度のうつにより退職。2018年に自身の病気と離職の体験をつづった『知性は死なない』が話題となる。著書に『中国化する日本』『日本人はなぜ存在するか』『歴史なき時代に』『平成史』ほか多数。2020年、『心を病んだらいけないの?』(斎藤環氏との共著)で第19回小林秀雄賞受賞。

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