為末さん、これから何を仕掛けますか? スポーツとビジネスの接点を探る

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田中:私は、留学中にアプリの会社をアメリカで起業したんですが、うまくいきませんでした。数十万のユーザーを集めたものの、サーバー費用や回収費用でおカネが回らなくなって、最後は事業売却をしました。投資費用は回収できましたが、時間を相当かけたのに利益ゼロで、結果的に無給で働いたようなものです。

でも、それ以外はダメージはなくて、アメリカは失敗した人に対して寛容ですし。一方で学びはたくさんありました。だから、私は失敗を経験することはすごく重要だと思います。

為末大(ためすえ・だい)
1978年広島県生まれ。1993年、全 日本中学校選手権100m・200mで二冠、ジュニアオリンピックでは当時の日本記録を更新。以降、インターハイ、国体、世界ジュニア選手権などで短距離 の新記録をマーク。法政大学へ進み、日本学生選手権400mハードル3連覇。シドニー、アテネ、北京五輪に出場。世界選手権では2001年エドモントン大 会にて3位に入り、トラック競技で日本人初のメダル(自己ベスト47秒89を記録)、2005年ヘルシンキ大会でも銅メダルを獲得。著書に『日本人の足を速くする』『走る哲学』『走りながら考える』など

為末:いやあ、そうですよ。僕もスポーツの世界では順調に進んで、短距離をやりながら描いていた将来のストーリーみたいなものがあったんですが、高校ぐらいから負ける経験をしてストーリーが破綻しました。それが結構ショックで、だからハードルに移ったんですけど。

その後も、自分で選んだ練習方法で失敗して、それは自分が立てた仮説が間違っていたということで。そういうものも含めると、「あ痛たた!」っていう失敗が何度もありました。

でも、10代で1発目の失敗があったのはよかったと思っているんです。そのときは、これで全部予定が狂っちゃって、もう終わってしまうかもと思いましたが、2回目はショックが薄くて、だんだん回を重ねるごとに平気になってきました。

スポーツでもろいタイプの選手って、全部ストーリーが決まってるんですよ。こうしなきゃいけない、これがこうなったら、ああなっていくって。一見、明確なビジョンがあってよさそうなんですけど、自分の思い込みを基に立てた仮説で強固な世界が出来上がっている選手が、1回そのストーリーからズレてしまったら折れやすい。

その失敗が20代半ば以降だと、もうだいたい浮上しませんね。競技生活は30歳ぐらいまでなので、1回沈んでいるうちに終わってしまう。だから、なるべく早い段階で1回目の失敗をすることが重要だと思います。

本当の客観とは何か?

田中:為末さんも私も、外から日本を見たり、異文化交流をしたりしたからこそ、自分の価値観が実はワン・オブ・ゼムだったとか、失敗なんて大したことないと気づいたということですよね。やはり客観的に見ることが「何が正しい」かを知るうえで、大切なのかなと思います。

為末:僕、よく思うんですけど、客観的に見る目がどこかに固定されていると、それはそれで主観のような気がするんです。

本当の客観って何なのかを考えていくと、結局、多面的に見るということでしかない。要は1人で見るのではなく、10人ぐらいで見て出てきた答えは、ある程度、客観に近かろうという。

でも自分以外の視点がたくさんあるかどうかって、結局は自分以外の人とのコミュニケーションが豊富かどうかによるんです。自分と似た人のサンプルをたくさん集めても、それは自分の主観に近い客観になってしまうので、自分と全然違うサンプルをどれだけ集めるかが大事ですね。

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