常見:北澤さんの言う「人材が育つ営業現場」は、当たり前のようで新しいと思ったんです。大手企業で成功体験のある営業マンがベンチャーに来て「気合いと根性だ」と部下を使う。無理して成功しなさそうな案件を取ってくるから、評判も落ちていく。やっぱり、日本企業の強みは人が人を育てる連鎖だと改めて知りました。
勇気ある投資を
常見:石川さんはこの本をどう読まれましたか?
石川 明(以下、石川):よく、「一度は営業をしてみるもんだ」と言われますよね。ぼくも、なんとなくそうなのかなと思いつつ、でもうまく説明できずにいたのですが、この本を読んで、やはり営業をすることで仕事を覚えると思いましたね。
今の若い人は、経験を積めない状況です。成長していた市場でやっているときは、機会が向こうからやってきました。でも、低成長になってくると、機会が与えられず、貴重な機会はエースの先輩がやってしまいます。「自分で企画したい」と考える若者はいっぱいいるのに、一度も経験できずに10年目……というケースがよくあります。
ぼくは「社内起業」の本を書きましたが、新規営業はまさに小さな起業だと思っているんです。お客さんの前に対峙して、このお客さんをなんとかしたいと、考えるわけですよね。ですから、さまざまな経験ができる分、営業は人が育ちやすいのかなぁと思いました。
北澤:企画ほど顕著ではないですが、営業の現場でも、いいスポンサーはエースがやる。でも、これをやってしまうとダメなんです。ただ、会社が成果を求めるので、そうせざるをえない事情もあります。
常見:本では「機会」という言い方をしていますよね。よく、元リクルートの人が創業者の故・江副浩正氏の言葉を引用して「みずから機会を創り出し、機会によってみずからを変えよ」と言います。ぼくは薄々気がついていたのですが、「みずから機会を」という割に、リクルートは「機会」の「与え方」がうまい会社だったと思うんです。北澤さんも、評価が高くなかった人を、なんで不調だったのかを見抜いたうえで、係長に抜擢したと本に書いていましたね。
北澤:そうなんです。私の部下にあたる係長を決める際、エースというよりも、横浜の支社でくすぶっていた人を選びました。しかし、彼は年間MVPになる人材に成長したんです。
石川:勇気のある投資ですよね。 彼のどこを評価したのですか?
北澤:彼は確かに成果を出していませんでした。でも、自分をごまかさずにちゃんと向き合っているのを感じたんです。だから、やり方さえあえば、成長の伸びしろがあると思いました。
すごく当たり前の話ですが、イノベーションを起こすには経験が必要です。それに加え、自分と向き合って自分のコアを鍛えないといけません。しかし、経験を積んでいくにしたがって、自分のコアではなく、殻だけが鍛えられていく人が多いのです。
外側は立派かもしれませんが、中身はまだまだ未熟である40代、50代がかなり多いと感じています。困難があると逃げてしまうので、部下を育てることもできません。イノベーションも生まれないのです。
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