新規制基準では、過酷事故時にこれから述べるような水素爆発を防止するための対策を電力会社に求めているが、うまく機能するとは思えない。
まず過酷事故の代表的な想定シナリオとして、原子炉に直結している大口径の配管が破断し、かつすべての交流電源が喪失する場合を取り上げる。
そうなると、冷却水が失われ、電動ポンプのある緊急炉心冷却装置も格納容器スプレイ装置も動かない。こうした場合にはわずか20分ほどで原子炉の炉心が溶融し始める。そこで問題になってくるのが大量の水素の発生だ。
ジルコニウム合金を材料とする燃料被覆管が1200℃を超す高温状態で水と接触すると、急激な化学反応を起こして水素が発生する。また、溶融した炉心が原子炉圧力容器の底部を破損させて格納容器の床のコンクリートに接触すると、「溶融炉心・コンクリート相互作用(MCCI)」により、コンクリートが熱分解されて炭酸ガスと水蒸気が生じ、溶融炉心に残っているジルコニウムと水との反応によってここでも多量の水素が発生する。
原子炉格納容器内の水素濃度が高まると爆轟(ばくごう=爆発現象の最も厳しい形態で、衝撃圧が発生)防止の判断基準値13%を超える可能性がある。そのため、新規制基準の審査ガイドでは13%以下になるように格納容器破損防止対策を求めている。問題はその対策に実効性があるのか、また、水素発生の評価が妥当なのかだ。
水素爆発を防ぐとされる「イグナイタ」の危険性
――具体的にはどのようなことでしょうか。
滝谷 水素爆発を防止するための対策として、高浜1、2号機も含めて加圧水型原子炉(PWR)では「イグナイタ」(ヒーティングコイルに通電して加熱し、水素を燃焼させる装置)の設置を各電力会社が打ち出している。だが、この対策には問題がある。
労働安全衛生規則(厚生労働省令)第279条では「危険物等がある場所における火気等の使用禁止」が定められている。水素ガスを意図的に燃焼させて濃度を下げることにより水素爆発を防ぐというイグナイタは、爆発の点火源となるおそれがあり、その使用は危険性が高い。原発で働く労働者の安全を脅かすことはもちろん、格納容器の破損により周辺の住民に甚大な放射線災害を与えると言わざるをえない。
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