――関西電力にコメントを求めたところ、原子炉格納容器内の水素濃度の高まりを抑えるためにイグナイタを使用する際には、格納容器内に労働者がいないことを確認するので、労働者の安全は確保できているということを理由に、労働安全衛生規則には抵触しないと回答しています。
滝谷 格納容器内に労働者がいなければ規則に抵触しないという考え方はおかしい。その理由は、格納容器内での水素爆発により格納容器破損個所から流出する放射能、熱風・高温水蒸気、瓦礫などにより格納容器外にいる運転員、作業員の安全が脅かされるからである。
福島原発事故では、格納容器が破損してそこから原子炉建屋内に流出した水素が爆発した。その際、屋外で注水作業に従事していた作業員が負傷し、消防車が破損する事故も起きている。
関電による水素発生量の評価は妥当でない
――厚生労働省によれば、労働安全衛生規則第279条は可燃性ガスに関する規制であり、原子力施設では常時水素を扱っているわけではないという理由から、この条文は適用されないと説明しています。
滝谷 これも理が通らない説明だ。なぜなら、一般産業施設においても水素爆発が問題になるのは常時ではなく、原子力施設と同じ様に設備機器の故障や人為ミスによる事故時である。事故時に生じるおそれのある水素爆発から労働者の安全を守る必要があることは、水素を常時扱っているかどうかには何ら関係しない。
――関電による計算結果についてはどう思われますか。
滝谷 炉心溶融が起きても格納容器内の水素濃度が13%以下に収まるという計算結果も信頼性が乏しい。具体的には高浜1、2号機では水素濃度が計算モデルや計算条件の不確かさを考慮に入れて最大約11.1%であり、爆轟防止基準を下回ることを確認していると規制委の審査書は記しているが、過小評価だと思われる。
関電は審査ガイドに従って、原子炉圧力容器が破損するまでに全ジルコニウム量の75%が水と反応することに加えて、前述の溶融炉心・コンクリート相互作用(MCCI)による発生を解析コードで計算して合計約82%の反応による水素発生量を求め、規制委も関電の評価を妥当としている。だが、川内原発1、2号機の審査では九州電力がMCCIの解析コードによらずにジルコニウムの全反応量を考えられる最大値の100%として、水素発生量を評価している。つまり、川内原発のほうがはるかに厳しい条件で評価している。
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