政府・日銀の政策発動が「不発に終わる」懸念 神経質な市場環境、観測記事の扱いに要注意

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日銀も今回は無策というわけにはいかないが、何ができるのか。今回の政府・日銀の対応で、彼らの政策に限界があるのかを確認することができそうだ。限界があるとの判断になれば、株価急落・円高加速は不可避である。そもそも、現在の中長期トレンドは変わっていない。むしろ、このトレンドが強化されるだけであり、そのほうが自然であろう。いずれにしても、29日のランチタイムを待つしかないが、いまは下落に備えるべきであると感じている。

一方、27日のランチタイムには、「日本政府が50年債の発行を検討している」との報道をきっかけに、ドル円は一気に106円台に入る場面があった。一時は106円台半ばまで買われる場面があったが、その後に財務省が「50年債の発行を検討している事実はない」と、報道を否定したことで、ドル円は一気に上げ幅を縮め、105円台に押し戻された。現在のように、政府・日銀の政策への関心がこれまで以上に高い神経質な市場環境にあると、報道に対する市場の反応はきわめて敏感かつ俊敏になっている。アルゴリズム取引やAI(人工知能)を基盤とした取引がその背景にあるのだろうが、それにしても値動きが激しい。

市場を揺るがしかねない観測記事のリスク

そもそも、最近は観測記事が多く、それに市場参加者が即座に反応する構造となっている。値動きがきわめて激しくなるのも仕方がないのだが、根本にあるのは、報道の扱いである。報道を材料にトレードするものからすれば、その内容を精査し分析する暇はない。まずは報道のヘッドラインに合わせて市場が動く方向についていくしかない。報道機関はそれなりの調査や取材をしたうえで報道しているのだろうから、相応のリスクを取って報道しているのだろう。しかし、内容やタイミングは決して褒められたものばかりではない。

これらの情報を利用する側は、その報道のヘッドラインを割り切って使いながら、トレードの判断にするしかない。以前にも、ある通信社の思い込みとも言える、日銀金融政策決定会合での検討内容に関する記事を市場参加者が鵜呑みにし、勝手に盛り上がった後にはしごを外され、株価が急落し円高が急速に進んだことがあった。今後はそのようなことはないだろうが、市場が機械的に判断する時代になっていることもあり、市場の超短期的な急変には常に注意が必要だ。

最近では、主要経済新聞における財政出動に関する記事のあいまいさの裏にある実態を理解した市場が、すかさず株式を売却し、円高に進むといったことがあった。まさに学習効果である。今後も政府・日銀が直接発信していないことに関する観測記事が市場を揺るがすことがあろうが、賢明な投資家はそれらの内容の扱いを慎重にすることだ。いずれにしても、29日のランチタイムには日銀金融決定会合の結論が出る。その内容を見たうえで、しっかりと対応することが肝要である。

江守 哲 コモディティ・ストラテジスト

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えもり てつ / Tetsu Emori

1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事入社。2000年に三井物産フューチャーズ移籍、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスのチーフファンドマネージャーに就任。2015年に「エモリキャピタルマネジメント」を設立。会員制オンラインサロン「EMORI CLUB」と共に市場分析や投資戦略情報の発信を行っている。2020年に「エフプロ」の監修者に就任。主な著書に「金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり」(2020年プレジデント社)。

 

 

 

 

 

 

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