日本のエネルギー問題は「地形」で解ける

ダムは先人の犠牲の上に立つ「人工の油田」だ

もうひとつ、川の水には問題がある。川の水は年間を通して同じ水量で流れてくれない。雨が降るときと日照りが続くときとでは、川の水量はまったく異なる。自然の川の水の流れは、時系列で見るとバランスが悪く秩序がない。つまりエントロピーが大きいのだ。

ところが、山岳地帯にダムがあると、状況が一変する。

ダムにせき止められて、いくつもの渓流を流れてきた水が1カ所に集まることになる。大量の水が渓谷の大きな落差で勢いよく落下する。ダムにより、1カ所に水の位置エネルギーを集中できる。

さらに時間的変化が大きく秩序のない水の流れは、ダムに着いた瞬間におとなしくなり、静かに秩序をもって貯まっていく。つまり、ダムさえあれば、大きな位置エネルギーと、大量な水の量と、エントロピーの小さい使い勝手のよさを得ることができるのだ。

日本の近代産業の遺産

ダムがあってこそ、日本はエネルギー資源大国となれる。

実は、雨が多くて山が多いという地理的な条件だけならば、日本だけが該当するわけではない。たとえば、インドネシアには山が多いし熱帯性の雨も非常に多い。また、温帯でもカナダなどには、山岳地帯で豊富な雨の降る地域がある。基本的には、これらの国でも水力発電は有効だといえる。

ただし、雨の多い山岳地帯という自然条件だけでは、水力発電を効率よく行えるわけではない。そこにダムという人工の構造物を造る努力をしなければならない。

山、雨、そしてダム。

日本はこの3つの条件を満たしている。その日本は、水力のエネルギーに非常に恵まれていることを、私たちはもっと自覚してもいいだろう。

なぜなら、ダムは非常に大きな対価を払って獲得した物であり、しかも、これからの時代にはなかなか手に入らないものだからだ。川の水源部にダムを作ると、谷には膨大な水が貯まる。それまで渓谷だった場所が湖になり、すべてが水没する。森が水没し生態系が変わってしまう。そこに住んでいた人々の生活も沈む。村の長い歴史が家屋もろとも水の底に沈み、住んでいた人々の大切な思い出も消えてしまう。

こうした巨大な破壊と引き換えに、電気エネルギーを得るという仕組みがダムである。かつての急激な近代化の過程では、巨大ダム開発がいかに多くの人々に犠牲を強いたのかを現在ほど強く認識していなかった。そのため、こうしたいわばハイリスク・ハイリターンの開発が可能だった。

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