日本のエネルギー問題は「地形」で解ける ダムは先人の犠牲の上に立つ「人工の油田」だ

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その自然条件とは、山である。

たとえば、東京23区にいくら大量の雨が降ったところで、海抜が低すぎてエネルギーにならない。ところが、山に降った雨は自然と谷へと集まってくる。関東の場合なら、神奈川県の丹沢山地や東京都の奥多摩に降る雨は谷に集まり、相模川や多摩川の水となって流れ落ちる。水源地域の谷には大量の雨が自然に集められていく。しかも、水源地域は海抜が高い。谷に集まった水の位置エネルギーは非常に大きい。

このように、日本の山岳地帯は、アジアモンスーンによる大量の雨を、エネルギーの大きい位置で効率よく集めてくれる装置となっている。明治期に来日したベルが「日本はエネルギーが豊かだ」と言ったとき、彼が多雨と共に注目していたのは、日本の山だった。日本列島を平均すると、約7割が山なのだが、この地形が、雨をエネルギーに換えるのに有利な条件となる。

多雨と山岳地帯。

こうした日本の気象と地形という地理条件を確かめたからこそ、グラハム・ベルは「日本には豊富なエネルギーがある」と断言したのだ。

大きな位置エネルギーと大量の水を同時に集める装置

多雨と山岳地帯。この2つは自然が与えてくれた利点である。だが、このままでは雨のエネルギーは効率よく電力に換わらない。位置エネルギーを電力に換えるときには、川の高低差が大きいほど効率がいいし、水の量が多いほど効率が良くなる。

ところが、自然のままの川には、高低差があり、水の量が多いという2つの条件を、同時に満たすエリアがないのだ。山に降る雨は、山間の谷へと流れ込む。その一つひとつは細い渓流に過ぎず、それらが集まって次第に大きな川になり、山岳地帯から平野部へと流れ落ちていく。山岳地帯を流れているときには、流域の高低差が大きいが、流れる水の量が少ない。もし、山岳部の川の位置エネルギーを満遍なく電力に換えようとすれば、多数ある渓流のすべてに、いくつも小さな発電施設を設ける必要がある。

逆に、平野部を流れるときは、川の水量は多いが、高低差は小さい。落差が大きい渓流部を流れ落ちてしまった後では、ほとんどの位置エネルギーは失われているからだ。発電施設は少なくて済むが、肝心のエネルギーが減っており、発電力が落ちてしまう。

つまり、自然に流れている川では、水の位置エネルギーと水の量を効率よく電力に換えることができない。

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